どうすれば報われる




それは唐突すぎる言葉だった。私は何を言われたかいまいち理解できなくて、しばらく答えることができなかった。


「出てけ」


そう言われた。
最近、というよりもあの日、私がスパナに「なぜ私を助手にしたのか」と聞いた日からスパナの様子がおかしかった。あの日スパナは結局一言も話さず、話はそれで終わった。私もそれから一度も聞かなかったから、話は終わったものだとばかり思っていたのだが。


「な、何て?」

「だから今すぐここから出てけ。もう戻ってくるな」

「戻ってくるな…て、私の仕事は、」

「違う、ミルフィオーレから出ていくんだ」


いつものぼんやりとしたものではない、スパナの鋭い視線。彼は本気だ。本気で、ここから出ていくように言っていた。


「なんでよ、私はもうミルフィオーレの一員で―――スパナ!?」

「あんたの意見は聞かない」


スパナはポケットから取り出したそれを、私の額に向ける。黒い鉄、それは紛れもなく。


「本物なの…?」


ピストルである。


「私が、変なこと聞いたから?」

「…違う」

「私の仕事が遅いから?」

「違う!」


苛立つスパナ。それは私の知らない表情だった。
正直怖い。撃たれるかもしれない、私の知っているスパナじゃない。それでも、彼の言葉に従う気にはなれなかった。


「私は出ていかない」

「…じゃあ殺す」

「できないくせに! 手、震えてるじゃん」


スパナは、大きく目を見開く。その手元は確かに震えていた。


「私に理由を、」

パァン!


ピストルが火を吹いた。
私は驚いて尻餅をつく。すぐ後ろの壁が焦げ付いていた。


「ミルフィオーレはマフィアなんだ」


ぽつり、と呟きが聞こえた。


「ウチやあんたが作る機械は人殺しに使われる。ウチも何度も殺した…何人もの、人間を」

「…!」

「あんたに人は殺せない、あんたはマフィアにならなくていい」


マフィアが何なのか、私は知っているつもりだった。スパナが作る機械が何に使われるか、薄々感づいていた。
でも今、たった一発の球、微かな火薬の匂いだけで私の身体は馬鹿みたいに震えていた。

(スパナは私を逃がすつもりだ)


私は、スパナを見つめたまま動くことすらままならなかった。




090107



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