何食わぬ




「うわぁ、ピッツァだ、本場のピッツァ!見てスパナ、凄いよ」

「…」

「ね、ほらほらチーズが!!うわ…美味しい!」

「…」

「ねえスパナ聞いてる?」

「…聞いてる」


頬杖をつきながらこちらを眺めるスパナをよそに、私はイタリアを満喫中。目の前には本場のイタリアンピッツァ。
ここは白蘭さんが教えてくれた穴場のお店で(白蘭さんはなんだかんだで話し相手になってくれている)、スパナ行き着けの工具店をあとにした私たちは、イタリア観光と洒落込んでいた。


「次はどこいこうかな」

「…まだ帰らないの?」

「勿論!」


スパナは一瞬帰りたそうな表情を浮かべたが、文句は言わずに私に従う。
1ヶ月間の鬱憤を晴らそうと決意して出掛けてきたのは確かだ。しかしスパナが文句ひとつ言わないのは予想外。


「スパナが、私の観光に付き合ってくれると思わなかったよ」


スパナは興味のないことには無頓着だと、白蘭さんも言っていたしね。私が半歩後ろを歩く彼を振り返ると、スパナはきょとんとした顔で私を見ていた。


「助手子、一人じゃ迷子になるだろ」

「でも…正直つまんないでしょ」

「いや、楽しい」

「…え?」

「あんたといると、退屈しないから、楽しい」


さらりと言ってのけたスパナの言葉に、困惑しながら私は頬が熱を持つのを感じた。


「えええ、それって、私が馬鹿すぎて見てると笑えるとかそういう」

「……そう思っとけば」


照れ隠しに喚いた私から、視線を逸らしたスパナは、私の腕を掴んで歩き出す。


「ス、スパナ?」

「…ウチの行き着けのお菓子屋が近くにある」


引きずられるように歩きながら彼の名前を呼ぶと、彼は前を向いたまま応えた。


「白蘭のオススメは聞くのに、ウチのオススメは聞かないの?」




(さらり、と言われたらどんな顔していいのかわからないじゃない)

081217



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