まだかしら青い春




「18番のネジ取って」

「はい」

「あとドライバーも」

「プラスだよね」

「設計図って…」

「そこに置いといた」

「…あれがない」

「あぁ、そのサイズのナットはまだ注目中」



――数学は苦手、物理もだめ、スペクトルわかんない、ニュートンってどこの都市ですか。

――…ニュートンは都市じゃなくて人だ。有名な、物理学者。



正直、だめだと思った。いくらウチが優秀な技術者でも、完全に機会音痴なこの子を整備士にさせるなんて無理だと。

それが1ヶ月でここまで成長するなんて、誰が思うだろう。


「重力とかよくわかんないけど、サポートの仕方はなんとか。私はスパナが望んでることを察して、補助すればいいんだよね」


少し前に、そう助手子は言った。補佐が上手い、と誉めたときだ。

が、しかし。ウチが何を考えているのか、察するのは難しいと思う。多分そんなに表情豊かじゃない。
それなのに、助手子は言ったとおりウチが欲しいもの、やってほしいことを当てて、すぐに動いてくれる。
これまでは一人でなんとかやっていけた、でも、今凄くスムーズに仕事が進んでいるのは助手子のおかげである。理解者がいる、一人でやってるわけじゃないというそれだけのことが、こそばゆく、ちょっと嬉しかった。


「…仕事、慣れた?」


助手子は、緑茶を淹れる手を止めた。
助手子が淹れる緑茶は美味しい。ウチが淹れるよりずっと。流石ジャッポネーゼだ。


「大体の基礎はわかるようになってきたけど、」


ごぽごぽ、マグカップに緑茶が注がれる。


「イタリア語は相変わらず」

「喋れるようになりたいのか?」

「まぁ…日常会話くらいはね」


そうだ、助手子は街に出てみたいと言っていた。正直、ウチはイタリアの街になんか興味はないのだが、イタリアまで来て本部に入り浸っている、というのが悔しいという。


「今度…街に部品買いに行く」

「え!」

「あんたも行くか?」


ウチの言葉に助手子は嬉しそうに頷ぃ。


「何着ていこう!」


喜ぶ助手子に、何故かこっちまでわくわくしてしまう。機械以外でこんな気持ちになったのは、いつぶりだろうか。


近頃のウチは、毎日が新鮮。



081123



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