私とおんなのこ 友達になってくれない、なんて。恥ずかしい台詞、よく言えたものだと思う。でもそれしか考えつかなかったのだ。友達ってどうやってつくればいいのだろう。 一先ず済んだといっても、今は仕事で来ている。友達なんて作っている場合ではない。が、これを逃したらこの先チャンスはしばらくないと思った。声を掛けた女の子は、大人しそうながらも割と気さくっぽいし。優しそうだし。きゃぴきゃぴと煩くもなくて、ちょっといいなと思ってしまったのだ。うん、友達になりたいタイプ。 どうしてこんなにも友達が欲しいのかと言うと。私には女友達がいないからである。 物心付いたときから男所帯にいた。そりゃあ近所の女の子と遊んだこともなくはなかったけれど、どちらかというと私は、ずっと兄上についてまわっていたのだ。そして忍者になると決心してからは尚、女の子らしい行為からはすっかり離れてしまっていた。 そういう理由からも、私は「くの一」ではなくて「忍者」だった。今回はこうして諜報活動をしているけど、本来の持ち場は火薬とかそっち専門であるし。 (でも、だからといって友達が欲しくないわけじゃないんだから) 特にこの年になると、将来の自分の身の振り方を考えてしまったりして。というよりかは、周囲の男共への不満を発散したくてたまらない。上司とか、上司とか上司とかの。 出会いは一期一会。この仕事が終わるまでの一時になってしまっても、彼女と友達になりたかった。だから、私にとっては一大決心で問いかけたのだ。 「と、友達?」 「うん。だ、だめかな」 「だっ駄目じゃないけど…!ど、どうして?」 「さっきも言ったけれど、来たばっかで友達がいなくて、寂しい、みたいな」 うわあ、私なんて怪しいんだ。これ、忍務中だったら絶対色々やばい。彼女が町娘じゃなくてくの一だったら、確実に怪しまれている。仕方ない、だって諜報の仕事なんて久々だったし、友達になりたい子に色を使うわけにいかないし。 「えっと、私で良かったら」 「いいの?!やった!しばらくこの町に滞在するの、また一緒にお店まわったりしてくれる?!」 「うん、こちらからもぜひ」 快く頷いてくれた彼女に思わず、飛びついて喜んでしまう。うわあ、テンションあがる。超嬉しい。本当に。 「私は夕子。よろしくね!」 「いさ、いさこです」 握手して、微笑みあう。そして連れ立って、女の子らしい店を目指して歩き出した。ところで女の子らしい店ってなんなんだろう。私はよく分からないけど、その辺りはいさこ…伊沙子ちゃんに任せるとしよう。 それから一刻ほど一緒に過ごして。ますます伊沙子ちゃんへの高感度が上がった。彼女は癖っ毛と釣り目がちな目元がチャームポイントの、とっても優しい笑顔を浮かべる女の子である。背は、ちょっと私より高いかもしれない。もしかして年上なのかな。ドジっ子なのか、割とよく躓いたりぶつかってたりするところも、なんだか可愛らしい。これが町娘の素朴な魅力ってやつか。私もぜひ真似したい。 でも。 心の中でガッツポーズ。やった、はじめての女友達だ。帰ったらすぐに組頭に自慢してやろう。 130305 |