斎藤タカ丸とプロ忍彼女の恋


働く女は恋愛なんぞにかまけていられないとはいえ、もういい歳なのは確かであるし、私に恋人ができたと聞いて仕事仲間たちは一斉にどよめいたものである。しかも相手は学生。ギリギリ未成年。かつイケメン。所々誤魔化しながら私が提示した情報に、くノ一の会(いわゆる未婚くノ一が集まる女子会である)の面々の反応はこうだった。


「え〜何、年下彼氏を侍らして、惑わして、いいようにしちゃって!虜にさせちゃう年上彼女とか、凄いくノ一っぽい!なまえやばい〜!」


年下の彼氏をいいようにする、魔性のくノ一。私が決してそんなタイプではないといっても、話だけ聞けばそうなるのは仕方がないと思う。だって、年下で学生なのは本当のことなのだ。
でも、彼を振り回せてなんかいない。それが事実だったらどんなに良かったことかと内心で溜息つきまくりである。






「近く通りかかったから、きちゃった」

「・・・タカ丸、授業は?」

「夜までに帰れば大丈夫。なまえちゃんに会いたくなっちゃて〜。お邪魔するね」


前触れもなくやってきた彼、斎藤タカ丸は私の返答を聞く前にさっさと部屋に上がり込む。私が拠点にしている長屋だ。仕事の関係で留守にすることも多いのに、私が居るときを見計らってか、かなりの頻度で彼は訪ねてくる。


「なまえちゃん、寝てた?髪が乱れてるよ〜」


さっさと定位置に座り込んだタカ丸は、私の手を引くと強引に膝に抱き上げる。そのまま、私は彼にもたれ掛かるように後ろを向かされて、勝手に髪をいじられる。
タカ丸は、忍術学園の四年生だ。しかしあの有名な髪結いの斎藤幸丸さんの息子でもある。出会いは髪結いの方だった。いつもは行かない噂の髪結い処に、色々な事情(仕事関係だ)で訪れたのが切っ掛け。その時に顔見知りになって、次に忍術学園で再会して、二人して驚いたのだ。
タカ丸の家は、実は代々忍者だったらしい。しかしそれをタカ丸が知ったのはつい最近で、だからもう十五歳だけれど四年生に編入して忍術を学んでいるのだ。ちなみに私との年差は二つ。実に微妙だ。

好き勝手に人の髪を弄り、満足したのか、そのまま後ろからぎゅううと抱きしめられる。首筋に顔を埋められてすごく擽ったい。なにこれ、超恥ずかしい体制。めちゃくちゃ愛されてるっぽい感じ。


「なまえちゃんだーいすき」

「あ、ありがとう」


タカ丸は、スキンシップが激しい。言葉でも行動でも、いつでもどんなところでも、ストレートに愛情を伝えてくる。逆に私はというと、実は恥ずかしがり屋だ。だからこうしてタカ丸が迫ってくるとどうしたらいいのかわからなくて、硬直してしまうのだ。嫌なわけではないから振り払うわけにもいかなくて、されるがまま。年上だから私の方がしっかりしなきゃいけないとも思うけど、どうにも、彼には敵う気がまるでしない。


「なまえちゃんは、あんまり好きとか言ってくれないよね?」


・・・だいたい、タカ丸と私では恋愛経験値が違いすぎる。この金髪の男、かなりモテるのだ。はっきりとは聞いたことないけど、女性経験も豊富だろう。くノ一の癖して色とか苦手な私の手には、はっきり言って負えるわけがない相手なのだ。


「そ、そんなことないって。言ってるじゃん」

「えー、いつも俺ばっかだよ〜。なまえちゃん、受身だよね」

「はあ?そんなことないから」


いつもは受身でも何も言わないのに、今日に限ってタカ丸は、そんなことを言い出した。その言葉の響きに面倒な匂いを嗅ぎつけ、適当に受け流そうとする。しかし、今日のタカ丸はいつもよりしつこかった。


「ねえ、俺のこと本当に想ってくれているならさ。なまえちゃんから口吸い、してくれない?」


一瞬何を言われているのかわからなくて、言葉が詰まる。でも、至近距離でニヤニヤと笑うタカ丸に唇をつつかれ、漸く意味を理解する。同時に、体中の血が沸騰しかけた。


「ななな・・・!」

「なまえちゃん早く〜、俺のこと愛してないの?」

「あ、愛してるよ?!!!」


きっと、私の顔は真っ赤。まさかそんな催促をされるだなんて、考えてもいなかったのである。冗談でしょうと首を振るが、タカ丸は至って本気で、急かすように私の肩に両手を置くとわざとらしく瞳を閉じる。

(どうしよう・・・や、やらないわけにいかないよね)

普通、こうやって色で誘惑するのは年上でありくノ一である私ではないのか。それがどうしてこうなってしまったのだろう。
色々思うところはあるけれど、今この場をどうにかして切り抜けなければならない。しないという手もあるけれど、そうするときっと彼の機嫌を損ねる。その場合、さらにグレードの高い要求を強引に引き受けさせられるのは経験上、確か。
覚悟を決めた私は、えいっと思い切って唇を重ねる。ちょっとくっつけて、すぐ離れればいい。それくらいはできる、いやできなければくノ一じゃない!

しかし。触れたその瞬間、いつの間にか私の後頭部に伸びていたタカ丸の手により、頭が押さえつけられていた。そのまま深く口づけられる。唇を割られ、彼の舌が私の口内に侵入する。
そこからは、もうなんか思考は放棄した。されるがまま、散々付き合わされて。ようやく解放された時には息も絶え絶え、顔が真っ赤とか言っていられる状況ではなく。


「ごちそうさま〜」


ぺろりと、唇を舐めて笑ったタカ丸は惜しげもなく色気を放っている。
私は、麻痺した思考でぼんやりと思うのだ。振り回されているのは、百パーセント、私の方。


130527



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