尾浜勘右衛門、欲望に従う


なまえは、本当に美味しそうに食べる。目一杯頬張って、にこにこしている姿は見ているこっちも幸せな気分にさせた。だから俺は、いつも食事時はなまえを見つめることで忙しいのだ。


「ねーそれ美味しいの?」

「おいしいよ!」


何度目かわからないやりとり。でも何回も聞きたくなってしまう。美味しそうだから。勿論、俺が食べているものも凄く美味しいけれど、何倍も美味しそうになまえが食べるから。彼女は食事を始めるとそっちに夢中になってしまって、俺の方はあまり見てくれない。でも構わない。その方が思う存分、俺はなまえを見ていられる。

今日は二人で、最近評判のケーキを食べにきている。期間限定だという苺のロールケーキになまえの目は釘付けだ。フォークが、皿となまえの唇を行ったり来たりする。ぷっくりとした唇を、ぺろりと可愛らしい舌が舐めた。ああ、美味しそう。
その考えが顔に出てしまったのか、なまえは小首を傾げてた後ににっこりと笑ってフォークをこちらへ差し出した。


「勘ちゃんにもあげる、あーん」

「えっ?」

「だから、口あけてよ勘右衛門」


フォークの先には苺が刺さっていて、どうやらこれを食べろということらしい。


「ほら、早く」


催促される。あまりにごく自然な流れだった為に、疑問に思う間もなく俺は口を開けてしまった。なまえは気を良くしたようで、にこにこしたままフォークを俺の口へと差し込んだ。舌と唇を上手く使い、フォークから彼女の勧める苺を咀嚼させて頂く。そして役目を終えてなまえの手元へ戻っていく銀のフォークを見つめたとき、やっと今の行為が俗に言う「あーん」だと理解した。
巷ではカップルがよくやるとかいう。でも俺となまえはあまり外でいちゃいちゃするタイプではなくて、だからこういうことするの始めてかも。周囲から見たら、少し恥ずかしいことなのかな。

でも、そんなことよりも。あの彼女の唇が触れたフォークが、さっき俺の唇に触れたのだ。俗に言う間接キッスというやつ。いや、口内に突っ込まれたあたりが、よりいやらしく感じる。なんとなくだけど。なまえとキスしたことは何度もあるけど、直接的じゃない分、余計に今の方が恥ずかしく思えるというか。


「あは、勘ちゃん顔真っ赤。なんだか珍しい」

「そ、そんなことないって」

「あるって。かわいー」


・・・顔に出ていたらしい。にやにやするなまえから熱を持った頬を誤魔化すように、俺も自分のフォークをケーキに突き立てる。おお、このモンブランうま。


「私、勘ちゃんが何か食べてるとき好きだなあ。だってすごい美味しそうなんだもの」


じっとこちらを眺めていたなまえが、そう言った。自分では意識していなかったから、ちょっとした驚き。あと、お互いに同じように思っていたなんて、いかにもお似合いなカップルっぽくてちょっと嬉しい。


「なまえ、ちょっとあげる」


今度は俺が、フォークを差し出した。俺のフォークがなまえの口へと消えていく。されるがまま、食べさせられるなまえ。可愛い。美味しそう。大好き。

本当に美味しそうでまいってしまう。美味しそうだなあ、なまえの唇。


130319



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