鉢屋三郎、羞恥に負ける


14歳、思春期真っ最中である。人並みに異性のことは気になるし、興味と好奇心に任せて水着のお姉さんが載ってる雑誌とか、ちょっとえっちなサイトとか見ちゃったりもしている。おいそこ、ドン引きとか言うな。思春期の男が何も感じない方が心配だろ。性的欲求は人間の三大欲求の一つである為抑制しきれるものでもないし、適度に発散させることが精神衛生上にも大切なことなのだ。別に特別エロいわけではない。

つまり何がいいたいかというと、私はそれなりにそういったことに興味を持っていて、かつ常識的な知識を持っているので上手く発散する方法も知っているということだ。異性を前にガチガチに緊張してしまうような、初心すぎる男子ではない。だというのに。


「わ、私としたことが・・・」


なにをしているのだろう。なにがしたいのだろう。自分に呆れると同時に失望した。まさかこんな事態に陥るだなんて。

数歩前を歩くなまえをじっと伺いつつ、口の中で悪態をつく。私の馬鹿野郎、せっかくのチャンスをふいにする気か。この時間をどれだけ待ち望んできたか忘れたのか。思いだせ、思い出せ。
俺の視線はただ一点、なまえの左手に注がれていた。空いている。何も持っていない。手持ち無沙汰にぶらぶらと、これ見よがしに私の前にあった。そう、私は今彼女の左手を狙っているのだ。当然、手を繋ぐためだ。

だというのに、どうしても手を伸ばすことができないでいた。緊張のあまりに。数センチ指を動かそうとするだけで、汗が吹き出す。なまえの指と私の指が絡むなど、想像しただけでブッ倒れそうだ。なんだこれ、どうしてこれごときでこんなに動揺している?八左ヱ門でもあるまいし。


「三郎、聞いてるの?」

「き、聞いてる・・・」

「本当?怪しいなあ」


ちょっとだけ振り向いてなまえは頬を膨らませた。慌てて取り繕うように笑うと、なまえは仕方ないとばかりに息を吐いて再び歩き出す。可愛い。ほんのちょっとの仕草とかたまらない。やばい。
なまえは、果てしない程長い片思いの末にようやく付き合いだした彼女で、実はまだ一緒に下校するくらいしかしていない。手を繋いだこともない。・・・重要なことなのでもう一度いう。手を繋いだことがない。

手を繋がないどころか、直接なまえに触ったことが限られるくらいしかない。偶然手が当たっちゃったとか、そんな感じ。
だがこんな奥手みたいなのは、私の柄ではないのだ。実際には、めちゃくちゃなまえに触りたくてたまらなかった。白い肌は柔らかそうだし、いかにもすべすべしているし。抱きしめたりなんかしたら、腕の中にすっぽり収まってしまいそうで。どのくらいの力加減がいいのだろう、強すぎたら壊してしまいそうだ。

と、脳内ではそんな感じなのに実際に彼女を前にした途端、とてもじゃないけど実行はできない。せめてまずは手を繋ぐことからと思って、ここ数日はなまえと二人になるたびに彼女の手を狙っていたりする。

(だというのに、今日も私は戦功を挙げられずに敗退だ・・・)

こんなの、友人たちに知られたら良い笑いものだろう。この鉢屋三郎が女の子相手にここまで翻弄されているなんて、そんな格好悪い事実耐えられない。だからといってなまえの手を今すぐ握りにいけといわれたら、それもできないのでどうしようもない。本当に落ち込む。私ってヘタレだったんだな・・・。


「三郎・・・三郎!」

「えっ、あっ・・・」

「ぼうっとしちゃってどうしたの。どっか具合でも悪い?」

「そ、そういうわけではない!」


思い悩むがあまり、意識が飛んでいた。私に話しかけていたらしいなまえは、返事がないことを訝しがり私の顔を覗き込んできた。心配そうななまえの顔がすぐそばにある。それこそ、息がかかる程に。
あまりに突然の出来事に、赤面する間もなく硬直していたら。


「変な三郎。じゃあ、ちょっとだけカフェで休憩していこうよ」

「・・・!!!」


ごく自然な動作で、なまえは私の手を握って歩き出した。手を引かれながら、ようやく現状を理解し、じわじわと実感が湧いてくる。や、やわらかい!適度な柔らかさと体温!当たり前のように絡められた指に、心拍数が上がる。口から心臓飛び出そうだ。どうしよう私、今日手を洗えないかも。

思考の片隅で、手を繋いだくらいでこれではこの先自分は一体どうするつもりなのだろうか、と思ったりもしている。だがどうしようもない。だって私は、どんなエロい格好してるお姉さんよりも、今感じているなまえの手のひらの方に酷く興奮していた。


130318



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