不破雷蔵、本能に惑う


みょうじなまえちゃんは、ひとつ年下の後輩。同じ図書委員会に所属していて、よく働いてくれるとってもいい子だ。なまえちゃんは彼女の同級生と比べても少々小柄で、高いところの本を取ったり重いものを持ったりかなり危なっかしいのだけれど、いつも一生懸命に動いている。それがなんだか可愛らしく見えて、余計に好感を持っていた。

そんな彼女と、今日は二人で書庫の整理だった。当番はくじで決めたことで、そこに何らかの意図が絡んでいたわけではない。でも中在家先輩がクラスの用事で来れなくなり、僕と彼女の二人きりだったのだ。
僕たちは軽く談笑しながら作業をして。そこには何にも特別なことなんてなかった。異性と二人きりだからって何かハプニングが起こるわけではない。そんなに人生は都合よくない。

そう思っていたんだけど。でも、この体制はちょっと・・・いや、だいぶよろしく、ない。


「・・・・・・あの、」

「・・・・・・えっと、」


無理に上の方の本を取ろうとしたなまえちゃんは、バランスを崩して後ろへ倒れ込んだ。僕は急いで彼女を支えようとして、でもその衝撃で数冊の本が彼女へ降り注ごうとしていたことに気付いて、ええと、覆いかぶさるように彼女を庇ったんだっけ。あまりに必死だったから、すぐには自分がどのような体制でいるかんなんて分からなかったのだけれど。


「け、怪我はない?」

「だ、大丈夫です!雷蔵先輩こそ、あの、大丈夫ですか・・・?」

「うん。ちょっと痛かったけど」

「え!じゃ、じゃあ早く保健室・・・!」


会話をしながらも、お互いに視線を合わせられずにいる。分かりやすく説明すると、仰向けに倒れたなまえちゃんに、僕は馬乗りになる形で覆いかぶさってしまっていたのだ。
流石にちょっとアレな体制だよね、とすぐに身体を起こそうとしたのだけれど、思わず見入ってしまう。少し捲れたスカート、僅かにはだけた胸元、白い二の腕。そして潤んだ瞳に赤く染まった頬。
ついさっきまで、ただの後輩だと思っていた子の、こんなに色っぽい姿を見ることになろうとは。温厚で人がいいとか言われるけれど、僕だって男の子だ。そういうのに、弱かったりする。


「せんぱ、あの、どいて貰ってもいいでしょうか・・・」

「ご、ごめん!」


彼女の催促に我に返る。立ち上がってから彼女に手を差し伸べれば、なまえちゃんは警戒など知らないように躊躇いなく僕の手を取った。
一方の僕は。ちっちゃくて可愛いと思っていたなまえちゃんは意外と女として成熟している子、一度気付いてしまったらもう、なんだかそういう目でしか見れなくなってしまいそうで。


「雷蔵先輩、行きましょう?」


いつも通り小動物のような愛らしさで僕を見上げる彼女に、どぎまぎしている。
こんな無防備な姿を見せちゃって。僕だったから良かったけれど、もし三郎とかだったら直ぐに手をつけられてしまっていたかもしれないよ、なんて。


うーん、どうしようかな。
しばらく彼女のせいで、頭を悩ませることになりそうだ。


130318



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