善法寺伊作とお姉ちゃん


前に偶然、下級生を引き連れている伊作を見たことがあるのだ。
話に聞いていた通り、彼の後輩たちは割と小さな子ばかりだったので、文字通り伊作は彼らを引率して歩いていた。朗らかに笑いながら小さな子達に気を配る伊作は、いいお兄さんといった様子だった。その姿にいたく感動したのだ。


だというのに。



「うわああああああお姉ちゃあああん」


爆発音みたいなすごい音と同時に、響き渡る悲鳴。家のすぐ外からだ。わんわんと喚く、聞き覚えのある声。私は家事を一時中断して、頭を抱えながら声のする方へ向かった。
家の前に倒れる青年。その足の片方を溝に突っ込み、もう片方に犬が噛み付いている。どこかでぶつけたのか頭にはたんこぶ、頬には切り傷まで出来ている。きっと帰路の途中で色んな不運を引きずってきたのだろう。・・・これは酷い。伊作の不運、年々増しているんじゃないのか。


「伊作、お帰り」

「なまえお姉ちゃあああああん」


あまりの惨状に同情しながらも呆れる。顔だけを起こして私の名を呼ぶ彼の頭を撫でてやると、伊作はぎゅーっと腰の辺りに抱きついてきた。子供か。


「もー泣かないの。一体いくつよ」

「泣いてない・・・目に砂が入っただけ・・・」

「ああもう、擦らない!赤くなってる!」


前掛けで伊作の顔を拭ってやる。涙とか鼻水とかでべとべとだ。ああ、これ洗ったばっかなんだけどなあ。
伊作は生まれた頃から面倒を見ている、弟のような存在だ。家が近くて私の方が少し年上なだけなのだけれど、伊作は本当に昔っから手のかかる子だったので実に世話のしがいがあった。何かがある度にわんわん泣いて、いつまでも甘ったれで困ったものだと思っている。忍術学園では、割としっかりしていると聞いているのだけれど本当なのか。


「もー、伊作はどうしていつもそうなの。食満くんは、伊作もしっかりしてきたって言ってたのに」

「だっだって、お姉ちゃん」

「だっても何もありません。貴方が不運なのは同情するけど、男の子がそんなに簡単に泣いて、甘えて良いと思っているの?」

「思って、ない・・・」

「だったらお姉ちゃんに頼るのやめなさいよ」


溝から引き上げ、犬を追っ払い、顔の傷とたんこぶを治療してやりながら言い聞かせる。その間、伊作は私の前掛けをぎゅっと握ったままだった。だから、そういうところが甘えたなんだって。


「それよりも!なまえお姉ちゃん、留三郎といつ連絡とっているのさ!」

「いつもよ。留三郎くんとは仲良しなの」

「僕は全然聞いてない!」


当たり前だ。だって伊作には内緒だったから。同室の食満くんに無理を言って、定期的に伊作の起こした被害とか、怪我とかを連絡してもらっている。きちんと把握しておかないと、人様に迷惑を掛けていないか、重大な怪我をしていないか心配なのだ。伊作はしょんぼりとして私を見上げる。


「・・・もう勝手に僕の友人と仲良くしないでよね。なまえお姉ちゃんは、僕のお姉ちゃんでしょ」


ちょっと目頭を赤くして、ぼそぼそと呟く伊作。本当に、何を言っているんだか。確かに私は伊作の姉ちゃんだが、十五の男がそんなこと言ってちゃだめだろう。だから私も未だに伊作の世話に追われて、満足に自分のことは出来ないのだ。伊作が私の手を離れたら、働きに出ようかな、とか色々考えているのに。


「・・・・・・ばか伊作のせいで結婚できなかったら恨むからね」

「そ、そしたら僕が責任もってなまえお姉ちゃんをもらうから!」

「えっ・・・それはちょっと考えさせて欲しいわ」

「えっ僕じゃだめ?!」


駄目とかそういうことよりも。伊作の面倒を一生見させられるとか、覚悟しないと駄目だろう。伊作はもっと、自分が私に及ぼしている被害をちゃんと理解した方がいい。


130317



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