七松小平太と姉ちゃん


当時は近隣の家々の中で、一番幼い子だったのだ。だから、感覚的には村の中での末っ子だった。そして、甘やかしすぎた。

まずいなと思ったのは、小平太の年齢が片手で数え切れなくなった頃だ。どういう訳か、やけに体力のある子だった小平太に対し、遂に自分たちではどうにもならないと大人たちも悟ったらしい。
一回り上の子を投げ飛ばして泣かせ、村の機材を破壊し、平気で遠く離れた山まで駆けていってしまう小平太。甘やかして育てすぎたと気づいた時には既に、彼は大人の忠告など聞かなくなっていた。だから安心した。小平太が忍術学園に入ったことには。


「なまえ姉ちゃん!」


村の平穏と小平太の将来、双方に有益な決定である。だが、根本的な解決にはなっていない。長期休暇で彼が帰ってくる度に、村中はてんやわんやの大騒ぎなのだ。
それでも小平太は成長したと思う。半分くらいは話が通じるから。が、私にとってはもう半分が大いに問題なのである。


「姉ちゃーん!姉ちゃんはまだ嫁には行っていないのだな!私は今回も帰ったら姉ちゃんが居ないのではないかと、ドキドキしながら帰ってきたんだ!」

「はいはい、今回も残念ながら嫁いでないです」

「それは良かった!姉ちゃん居なかったら、帰ってくる価値が半分以下に下がるからな!」


家事をする私の腰回りにまとわりつく、齢十五の男子。しかも小平太は体格が良い。もう大人と変わらない体つきの彼が、じゃれるように私にくっついているのは、些か奇妙な光景である。

小平太は昔から、一番年の近い私を姉と慕って懐いている。家だってすぐ隣りだ。昔は私も小平太の手を引いて、色々連れ回したものだ。今は担ぎ上げられて恐怖のマラソンに連行されるけど。

問題なのは、今も小平太が私にベタベタだということ。容赦なく、小平太は甘えてくる。幼子そのものの態度で。以前は、時がくればしなくなるだろうと高を括っていた私だが、最近はちょっと危機感すら覚えている。スキンシップは、減るどころか苛烈を極めていた。絵面的にも、成人位の男女がするにはちょっと宜しくない。

村の大人たちが何も注意しないのは、小平太を恐れているからである。やっぱり私が甘やかしすぎなのかもしれない。小平太に意見できる数少ない人間として、ここはバシっといってやらないと。もう小平太だって、一人前になる年だ。いい加減、姉離れさせないと駄目だ。


「小平太!もう子どもじゃないんだから、ベタベタしないのっ」


言いながら力任せに腕をどける・・・ことはできなかったが、結構強い口調で言ったものだから、驚いたらしい小平太の力が緩んだ。その隙に、小平太と距離を取る。そのまま間髪を入れずに続けた。


「小平太はもう十五でしょう。立派な大人と変わらないのだから、私の弟は卒業しなさい!」


小平太は、まん丸の目をパチリとさせた。意味がわからない、とでもいうように。私に抱きついていたそのままの体制で、硬直する彼。その姿に、ちょっとだけ罪悪感が芽生える。言いすぎたかな。いきなり怒鳴って、流石にそれは良くなかっただろうか。でも言ってやらないと、わからないし。
私が心の中で葛藤している間に、小平太も何やら色々思いを巡らせたらしい。じっと私を見て、納得したように呟いた。


「そっか。私、もう姉ちゃんの弟は卒業していいんだな」


その言葉が聞こえるのと、私が彼によって引き倒されたのはほぼ同時だった。一瞬のうちに間合いを詰めた小平太。そして仰向けに倒された私。小平太は私の両腕を床に縫い付け、腹のあたりで私をまたいでいる。


「だ、だからっ!こへ・・・」


また悪ふざけ。大概にしなさいと注意しかけて、途中で固まった。見上げた小平太の顔は、いつもの小平太ではなかった。まるで獲物を前にした獣。じっと私を見つめる瞳は鋭く、両腕に伝わる彼の力に動揺する。少しも、動けそうにない。悪ふざけなんかじゃ、ない。小平太は本気だった。

――怖い。まるで、知らない人みたい。

その微妙な恐怖を見透かしたように、小平太は笑った。


「さっき、姉ちゃんが言ったんだろう?私はもう子供でも、弟でもないからな」


そして、囁く。


「なまえ、私は一人の男だ」




・・・どうやら私は、とんでもない藪蛇をつついてしまったようだ。



130309



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