立花仙蔵と姉上


私と仙蔵は、幼馴染であるより先に従兄弟である。
だから少し面影が似ているし、幼い頃は一緒に育てられたも同然なので姉弟といってしまってもおかしな話ではない。けれども、仙蔵が女の子みたいに可愛いのは今に始まったことではなくて、だから昔から、私たちは姉弟ではなく姉妹と言われることが多かった。
確かに仙蔵は、美少女のようだった。そして私よりしっかりしていた。だからなのか、私の親はいつも私に仙蔵といるように言いつけていた。仙蔵からも「なまえ姉上はそそっかしいので、ぼくが守りますね」なんて言われる始末。そんなだから、姉妹に見られた挙句に、姉と勘違いされるのは仙蔵であった。

これが幼い頃の話であればまだ笑って話せるのだけれど、今も変わらない事実だ。名残として未だに続いている仙蔵による私の護衛。もう幼子じゃないのだから、と何度も突っぱねたのだが、忍術学園へ通いだした仙蔵に「私の勉強の復習にもなるから」と丸め込まれてずるずると続いていた。

でも、この護衛という名の見張りを煩わしく思っている。私は成人しているし、仙蔵だって卒業と同時に一人前だ。そんな二人が恋仲でもないのに、毎度のように連れ添って歩くだなんて可笑しいではないか。
それに仙蔵は言わずもがな、美しい。これは完全に僻みなのだが、仙蔵と歩いていると女性からの注目度が高い。だから嫌だ。いくら従兄弟だからといって、どうして私まで注目を浴びなければならないのだろう。


「仙蔵、貴方もう私の買い物にいちいち付いてこなくていいわ。ひとりで来れるもの」


何度目になるかわからない、その言葉を告げる。が、当の仙蔵は聞く耳持たずで、さも当然のように今日も同行している。


「・・・女装させてまで貴方の手を煩わせるつもりはないもの」


そうなのだ。私が仙蔵と歩きたくない、と言ったらわざわざ仙子になって迎えに来た。相変わらずの美女っぷりに、余計に嫌になった。仙蔵は女装が得意だけれど、女心はてんで分かっていない。そこがまた憎かったり可愛かったりする。


「なまえ姉上が頼りないから、私はいつまで経っても貴女を一人で出歩かせられないんだ」

「そんなことないわ。私だって、」

「ほら姉上、そこの段差気をつけて」

「・・・忠告、感謝するわ」

「あとこれ、忘れ物ですよ」

「う・・・助かりました」


言っている側から、全く情けない。仙蔵も仙蔵だ。弟ならば弟らしく、私に面倒見られればいいのに。私たちは、すっかり立場が逆転している。


「困るわ。確かに仙蔵が居ると助かるけれど、いつも仙蔵が居るから私はひとりで何も出来ないのよ」

「何を言う。なまえ姉上、家事に関しては万能でしょう」

「家事は、いいの。違うの、私が言っているのは外でのことよ。私はひとりで出歩けもしない、殿方との関わりだってない、だから縁談もこないのよ」


仙子を恨ましげに見つめていたら、つい本音が出る。そう縁談。私だって、立花に恥じぬ女でありたい。だというのに、私には全く浮いた話が出ないのだ。年齢からしても大分、問題だと思う。その為に、少しでも可能性を作ろうと町に出たいのだ。でも、仙蔵が居たのでは、お話にならない。
仙蔵にとって、この私の思いは意外なものであったらしい。目を丸くした彼は、しかしすぐにクスリと上品に笑う。


「姉上、気に止むことはありません。姉上は私に頼っていてくださればいい」

「だ、だから――」

「私だって男だ。女の良し悪しくらいはわかる。姉上はとても素晴らしい女性です、が、縁談を纏める為には直さなければならないところもある」

「えっ、ど、どこ?!」

「でも言ってもきっと治らないだろうから、私がこうしてなまえ姉上の傍にいることで、徐々に理解してもらおうと思っているんです」


そんな話、始めて聞いた。けれども仙蔵は涼しい顔で「言っていませんでしたか?」なんて言う。


「そう、なの?」

「そうです。だから気にするな、私に頼っていればいい」


断言した仙蔵に、どこもおかしなところはない。判断を決め兼ねている私を、仙子が手を引く。


「なまえ姉上、早く行きましょう。あそこの菓子屋は人気なのですぐ売れ切れてしまうのですよ」


綺麗な笑顔。疑いようのない表情。仙蔵の言うことだ、きっと従っていて悪いことにはならないとは思う。

ちょっと騙されているような気も、しているけれど。


130312



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