このまま大人になってく 高校に上がったばかりの時、新しい制服に腕を通しながらも特に自分に変化のないことを残念に思ったのを覚えている。中学生の頃は、高校生といえば凄く大人に見えたのだ。だから根拠もなく、自分も高校生になったら何か変わるのではないのかと思っていた。でも、ただ今までの延長で、何も変わらずに制服だけ変わっただけだった。 同じような気分を今、味わっている。幼馴染と恋仲になった。今まで兄弟同然に育った彼は今や私の恋人。そうして私たちの関係は確かに変わった筈なのに、結局いつもと変わらない日々を過ごしている。 「匡、おはよ」 「おう」 玄関を出るとタイミング良く、向こう側からやってくる姿が見えた。いかにも不良ですといった着崩し方をした制服、派手な髪、気だるそうに歩くこの男こそ私の幼馴染であり恋人の、不知火匡だ。 お互いに言葉を交わし、当然のように連れ立って学校へ向かう。今までと全く同じ。 この、全く同じという点が私は気に食わなかった。お互いに幼馴染という関係では満足できなくて、付き合うことにしたのだ。それなのに、何も変わらないとはどういうことだろう。もしかして、本当に好きだとか思っていたのは私の方だけだったのではないか、なんて勘ぐりたくもなる。 「ねー匡。放課後どっか出かける?」 「あ?なんで」 「なんでって・・・なんとなく」 「じゃあパス。用事あるから」 折角デートでも、と思ったのにこの調子だ。そもそもなんで、こんな無神経な男を好きになったんだろう。軽く腹立たしくもなってきた。でも好きなんだ。だからこそ、むかつく。 ふつふつと沸き上がる不満を押さえ込みながら、匡に目を向ける。半歩先を歩く恋人は振り返る様子すらない。 「ていうか、ちょっと匡!なんでさっきからこっち向かないのよ?!」 「な、おい引っ張んな、やめっ・・・」 感情が高まるあまりに、私は匡の腕を乱暴に引いた。引き寄せ、顔を覗き込もうとする。どうせ冷たい目で呆れたような反応されるんだろうな、という予想ははずれ、何故か焦った様子で断固として顔を隠す匡。 顔も見たくないってこと?なにそれ。ありえない。彼が止めるのも聞かずに無理やり顔を合わせた。 その瞬間、呆気にとられてしまった。 「・・・・・・うわ」 「な、なんだよその反応」 「だって顔真っ赤、」 「言うな馬鹿女!」 尚も片手で顔を覆おうとする匡の頬は、何故か真っ赤だった。どうしたんだろう。本気で分からずに首を傾げると、匡は急に私に向き直り、声を張り上げた。 「お前な、人が折角今までと同じように接しようとしてんのに、何邪魔してんだよ?!」 怒鳴られ、目が点になる。今こいつ、なんつった。今までと同じように接しようとしている?意図的に? 「ど、どういうこと?!なんで今までと同じように接しようとしてるの、ていうか私は付き合ってるんだからそれなりの変化が欲しいんだけど!それともやっぱり匡は、私と付き合う気なんて本当はなかったとか?!」 「は?!ちげーよ、これだから馬鹿女は!」 匡は喚く私の肩をがしりと掴む。その勢いに一瞬、言葉が詰まる。その隙を付いて、匡は言い放った。 「だから!俺は今までお前が幼馴染だからって色々我慢してきたんだよ!それを、いきなりもう恋人だからって我慢やめたら、歯止めが効かなくなるっつってんだ馬鹿!」 呆気に取られて彼を見上げるしかない私に、匡は顔を背けてともごもご付け足した。 「名前が俺の恋人だと思ったら、なんとなく照れくさくて顔合わせづれぇし・・・」 と、いうことは。別にこいつは私のことを意識していないわけではなくて。逆に、意識しすぎていて普通に接しようと努力していた、と。 そのように認識したら、張り詰めていた筋肉が緩んで、急に頬が緩む。全く、我ながら現金である。 「えー何、照れてたの。小学生みたい」 「照れてねえよ襲うぞコラ」 「きゃーケダモノー」 結局いつものように、ふざけて笑って騒いで辿る通学路。何も変わらない、いつもの光景。表面上は何も変わらないけど、しかし変化があったのは確かだった。同じように見えても、私たちは少しずつ先へ進んでいる。それがもどかしいような、じれったいような。 でも、焦る必要はないのだ。きっと。私たちは私たちなりのペースで進んで行けばいいのだ。そんな風に思いながら、私はだいすきな幼馴染の指に、指を絡めた。 君となら、ゆっくり歩いてもいいよ。 このまま大人になってく 130403 |