情け知らずのお利口さん


「ついにきたか」


仙蔵の一言に、私は思わず肩をビクリと跳ねてしまった。恐れていたことがきた。嘘だろ、嘘と言ってくれ。しかし仙蔵は静かに首を振る。それを見ていた文次郎、留三郎も同上するように声を上げる。


「あー来ちまったか」

「災難だな。鍛錬が足りなかったのだろう」

「鍛錬は関係ねぇよ、ギンギン野郎」

「何ィ!??」

「やるかァ!?」


・・・騒ぎ出した二人は置いておこう。役に立たん奴らめ。私は、一縷の望みを託して長次に目を向ける。長次ならきっと否定してくれる筈だ。


「・・・・・・」

「えっ・・・まじですか長次さんその目嫌なんですけど」

「諦めろ名前」

「うっさいS法委員長!長次はあんたと違って優しいんだからね・・・!」


しかし、長次のその顔は間違いなく否定を示している。まさか、そんなまさか。認めたくなくて首を振る私。だがそうは問屋が下ろす筈はなく。


「おー名前!遂にいさっくんの不運が移ったか!」


私は小平太さんの鋭い言葉により、絶望の縁へと勢い良く叩き落とされたのだった。


不運。それはいつからか、感染可能なものへとなったらしい。私が知る限り、そんなことはなかったのだが。でも食満という生きた事例が居るので否定はできない。


「朝、可愛い後輩ちゃんたちと戯れていた所、同級生が落とし穴に掛かりそうになっててね。慌てて引き止めたのは良かったんだけど丁度通りかかった小松田さんと衝突して結局私が穴にハマり、なんとか食堂に着いたところで綾部に文句言おうとしたら作法委員で集まっていたらしく、更にそこにしんべヱと喜三太が居たらしく、焙烙火矢を持った仙蔵に鉢合わせして・・・・・・でも!私が不運なわけがない!」


私の主張に皆、賛同してくれる様子はなかった。代わりに同情するような視線をくれる。同情するなら金をくれ。
でも自分でもびっくりしている。前は不運なんて気にしない普通のくノ一だったのに、ちょっとずつ不運な割合が増えてここまで来てしまった。
皆は伊作の不運が移ったのだという。私はそんなことないと思う。伊作と付き合い始めてから不運が増えたとか、そんなこと・・・あるけど不運が移るなんてあるものか!


「あ、名前こんなところに居た。皆揃ってどうしたの」

「伊作うううう!皆がいじめる!」

「ええっ?」


ようやくご登場の私の王子様に、私は飛びついた。その衝撃で足を滑らせて伊作が後ろに倒れこみ、私共々床に叩きつけられたがそれは今どうでもいいとする。


「まさか。名前が何かしたんじゃなくて?」

「してないよ!あのね、かくかくしかじかで伊作の不運が私に移ったって!」

「な、なんだってー!?」


事情を聞いた伊作は顔色を青くする。


「いくらなんでもそれは酷いよ!僕が不運の元凶だなんて・・・」

「そうだよね酷いいいようだよね!」

「もしそれを名前が認めて、これ以上不運になりたくないって僕から離れていってしまったらどう責任とるんだ?!折角不運な僕に出来た大切な恋人なのに!!」


力強く言い切った伊作。あれ、もしかして自身の不運や感染説については否定するつもりない?周囲の友人たちも呆気に取られたように苦笑いする。
しかし私は、そんな伊作の姿にちょっと感激していた。だって、伊作は自分の不運云々よりも、私が離れていくのが怖いと言ったのだ。なにそれ可愛い。ときめく。


「伊作・・・!大丈夫、私伊作が不運でも不運を感染させるとしても、離れないから!伊作のこと、それでも大好きだから!」

「名前・・・!」


そのまま手を取り合う。見つめあったその瞬間、どこからともなく飛んできたバレーボールが伊作の頭に直撃した。けれど彼も私もそんなことは気にしない。だって気にならない。今はそんなことよりも、伊作と共に居る幸せを噛み締めることに忙しいのだから。

そしてこっそり決意する。私、これから不運と闘っていかなくちゃならないみたいだなあ。



情け知らずのお利口さん



「うわ・・・すげえ不運カップル」

「あの辺りだけ空気が澱んでいる気がする」

「近付くのは止した方がいいだろう」

「・・・もそ」

「私も流石にあの二人と行動を共にするのは避けたい!」


130228



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