あなたが作るわたしが壊す 私が天井から降りるのと、医務室の戸が開くのはほぼ同時だった。部屋に入ってきた人物はよく見知った後輩で、向こうもすぐに私と気づいたらしく笑顔で声を掛けてくれる。 「あ、体育委員ながらも保健委員並みの不運を引き起こすミスクラッシャー、くのいち教室の名字名前先輩!また委員会で無茶したんですか?」 「わぁ長い説明台詞ありがとう、乱太郎!と、伏木蔵ーーー!!!!!」 「うわあああっ名前先輩〜」 乱太郎の後ろからぴょこっと出てきた伏木蔵に飛びつく。伏木蔵は私のお気に入りだ。ちっちゃくて柔らかくて可愛い、マイペース可愛い、つい可愛さのあまり抱きしめてしまう。 「こら名前、伏木蔵が苦しがってる。離してあげなさい、名前の馬鹿力で潰れたらどうするんだ」 思う存分伏木蔵をぎゅっぎゅっと堪能しているところに、声。乱太郎の後ろからやってきたのは忍たま六年生、保健委員長の善法寺伊作。 渋々力を緩め、私は伏木蔵を解放した。 「馬鹿力で悪かったね!」 「それで、名前はどうしたの?小平太は今日は学内に居た筈だけど」 伊作とは同い年ということもあり、色々と腐れ縁である。主に怪我するさせる側と、治す側の。あと我らが体育委員長、七松とも親しいので私の情報はこの男にことごとく知られているのである。 「う・・・午前中に実習がありまして」 「うわ、酷い痣」 「痛そう〜」 くのいち教室では、戦場実習だったのだ。私の怪我の大半は七松のいけどん活動の被害だが、今回は珍しく授業。盛大に足を捻った挙句、太ももを殴打した。 「こんなに腫らして。どうしてもっと早く来ないかな」 「そんなこと言われても、最上級生の授業は卒業がかかってるじゃない」 「全く名前は、不器用なくせに頑固で妥協を許さないんだから」 「伊作に言われたくない。不運男」 「はいはい。相変わらず可愛げないなぁ」 薬を用意するから、と言い残して伊作は席を立った。 可愛げない、だって。そんなのわかってる。何度も言われてるし自覚してるし。それなのに。 「・・・傷つく」 「名前先輩、伊作先輩に悪気はないと思います〜。多分心配しているんです。毎回酷い怪我で来るから」 こっそり近づいてきた伏木蔵が言う。彼を膝に抱き上げながら、私はそっけなく答えた。 「ん。でも事実だからね」 「伊作先輩、名前先輩の手当は必ず自分がするからって保健委員のみんなに宣言してるんですよ〜?」 「んーっでもそれは私が、余計な備品壊しちゃうからだと思う」 ついつい卑屈な考えに行ってしまう私を、伏木蔵は困ったように見上げた。 伏木蔵は、私が伊作を好いているのを知っているのだ。怪我はわざとじゃないけど、伊作が医務室にいるタイミングを見計らって行くのも、つい可愛げのない反応をしてしまうけど後で猛烈に後悔していることも。 「本当伏木蔵は可愛いね!天使だね!!」 委員会に厄介な仕事を増やしている私を、うざったがるのではなく励ましてくれるなんて。一年生にしてこの包容力、将来有望すぎる。 「名前。伏木蔵で遊ばない」 「遊んでない。癒されてる」 「も〜。ほら、足出して」 裾を捲り上げると伊作はて早く手当を始める。本当に私、なんとも思われてないな。太ももさらけ出した姿、割と破廉恥だと思う。色気ないけど。 全部終わって、立ち上がりかけたその時、伊作の筋張った手が私の頭に乗せられた。 「次はちゃんと気をつけるように。女の子なんだから」 「!?・・・お、女の子じゃなくてくのいちだもん!?」 撫でられた・・・撫でられた?!更に至近距離で微笑まれた!なにこれ恥ずかしい!! 好きな人にそんなことをされて、平常心でいられるわけがない。照れ隠しで勢いよく立ち上がり、素早く後退する。・・・それが間違いだった。 「あっ」 「ああ〜っ」 一年生の声に我に返り振り返る。やばい、後ろの机に積まれてた書類全部、ひっくり返したらしい。やっちゃった。今日は瓶割らなかったし壁もぶち破らなかったのに。 「ご、ごめん伊作!失礼しました!!」 都合が悪くなったら逃げる。これも忍びにとって大事なこと。一目散に退散しながらまた、後悔する。今日も伊作にカッコ悪いところ見せちゃった。私の恋は前途多難、もうどうしようもない。 あとで七松に後悔、手伝ってもらおう。 あなたが作るわたしが壊す 「・・・全く名前が来ると余計な仕事が増えるな」 「伊作先輩、わたし、その分かりづらい照れ方どうにかした方がいいかと思いますが」 「名前先輩、迷惑がられてると誤解されますよ〜」 「・・・僕だって、これでも普通に接しようと頑張ってるんだ。なのに名前は小平太とやけにつるむし、怪我するし、さっきだってあんな太ももさらけ出して、僕だったからいいものの・・・!」 「伊作先輩顔赤いです〜」 「伊作先輩、名前先輩のこと大好きですもんね」 130203 |