▽ いつまでもここに居ようね


「ねぇどうして、ママはパパと結婚したの?」


日曜日の朝、お玉を片手に子ども達を起こす。炊きたてのご飯、温かいお味噌汁、焼き魚に卵焼き、我が家の朝食は純和食だ。
これは、うちの大黒柱たっての希望によるものである。一日一食は和食。結婚してからもう何年も経つけれど、それが覆されたことはない。

その大黒柱は寝ぼけ眼でやってきた子どもたちを押しのけて、私に背後から腕を回してしがみついていた。


「スパナ、それだとちょっと動きにくいのだけれど」

「ん・・・・・・昨日遅かったから」

「答えになってないよ」

「だから、名前不足」


頭が働いてないらしい。ここ数日、仕事が立て込んでいたから疲れているのだろう。本当はもっと寝かせてあげたいけれど、と思いながら子どもたちも一緒に席につかせて、自分も隣に腰を下ろした。
いただきます、と手を合わせる。

そこで投下されたのが冒頭の言葉だった。
驚いて発言者である長男を凝視する。しかし言葉を引き継いだのは、長男よりもふたつ年上の長女である。


「それ、私も聞きたい」


ようやくふた桁に届く、という年齢の彼女は年の割に賢い。大人びている割に淡白な言動はスパナに似たのかしら。


「パパはママと違ってだらしないし、弱そうじゃない。でもママはしっかりものだし、他の男の人にもモテモテだったって、この前ボンゴレのおじさん言ってたもん」

「言ってたー!」

「なのに、なんでパパなの?」


きょとんと首を傾げる二人の表情は、誰かさんとそっくり。まだよたよた歩きの次男も、同じような顔をすることがある。確実にパパの遺伝。あのきょとん顔に私は昔っから弱いのだ。

でも、母親である以上子どもたちの間違いは正さなければならない。


「パパだっていつも一生懸命働いている、すごーい技術者なのよ。確かに格闘技とかはしていないけど、弱っちくはないんだから。パパのこと悪くいわないの」

「ええー」


不満げな長女と長男にちょっと頭が痛くなった。ボンゴレ本部の皆は良くしてくれるけれど、余計なことを吹き込むのはやめて欲しい。正ちゃんもすぐに乗せられるから、当てにならないし。
どうしたものかと思ったところに、ようやくスパナが口を開いた。


「ウチが、名前を誰にも渡したくないって独り占めしたいから結婚したんだ。本当はお前たちにも渡したくない」

「パパずるい!」

「いっつもそうやってママを取るんだから!」


・・・煽ってどうするんだか。
スパナは基本的に良いお父さんなんだけれど、たまに素で自分の子どもと張り合っているあたりが恐ろしい。いや、恐ろしくかわいい。まるで子どもが四人だと、我が家の状況に呆れ半分で笑いがこみ上げる。そんな風に油断していると、私の旦那様は妙な色気を醸し出してきたりするのだけれど。


「こらこら。ママはパパがだーいすきだから結婚したのよ。だから、あなたたちが産まれたの。あなたたちもスパナも、私の大切な家族なの。だから仲良くして欲しい、わかった?」


ぐるりと食卓を見回し、言い聞かせる。すると三人は互いに顔を見合わせ、渋々ながらもはーい、と承諾の声を上げた。よしよし、いい子。詰まらないことで喧嘩をされちゃ、ママとしても大変なのだ。


「じゃあ早く食べちゃいましょ。今日は皆でお出掛けするんだから」


素敵な夫と、可愛い子どもたちと、大好きな家族に囲まれて。毎日は忙しいけどちょっと刺激的で、でもまったりとしたような幸福に包まれている。

なんでもない日常を、とても愛おしく感じた。



120924
五周年フリリク、ゆすきさんに捧げます。




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