▽しょうがないから負けてあげる 今売り出し中の人気俳優、と本人から聞いていたものの、彼は本当に今メディアの顔となっているらしい。 流行に疎い私でも、よく見かけるのだから余程だろう。 「周一くんがね、」 話題に上げるには旬な人物で、それが唯一ともいえる友人だったら尚更。雑誌を眺めていたらインタビューが載っており、つい先日の交流を思い出したのだ。 無意識に、名取周一の話題を恋人に振ってしまったのは仕方のないことだと思う。 「・・・周一サンがどうかしたのですか」 口に出してとっさに、後悔する。やってしまった。他の男の話をして怒るような、心の狭い恋人ではない。しかし名取は別。祓い屋としての商売敵だから。 「あっいや、なんでもない」 「言いなさい、気になります」 「・・・忘れちゃった」 あはは、と笑ってごまかしてみるものの胡乱な静司の視線は止まなかった。それどころか、ピリピリとした空気すら感じる。 「一度聞いておきたかったのですが・・・周一サンは名前にとっての何、ですか」 「友達だけど」 「友達、ねえ」 低く唸るような彼の声色にひやりとする。私と名取が親しいことを、良く思っていないのだろう。 だけど、この反応は予想外だ。名取と私は、もう何年も前から今の関係なのだ。それは静司も承知の筈。 「昔、名字名前と名取周一は付き合っていると、噂が広まった時期があった。七瀬からもどうやら真実らしいと、聞いていたんだが」 「・・・・・・・・・ッ?!」 「別に、名前の交友関係にとやかくいうつもりはありません。でも妙齢の女性の家に、恋人ではない男が好き勝手出入りするのは外聞の良いことではない」 無表情で淡々と述べた政治は、不意に口角を上げる。 「婚約者から浮気、と疑われても当然だと思いません?」 まるで、面白がるような口調。冷静を装った態度。しかしその実、彼は私に憤っているらしい。 名取と私の間には、利害関係による腐れ縁、それしかないのに。 「静司くん、それってもしかして」 憎々しげな視線から、静司の感情はよく伝わってくる。怒っている。名取のことを快く思っていない。 それなのに、私は慌ても怖がりもしなかった。何故なら、彼を支配する感情に思い至ってしまった。 「嫉妬?」 「してません」 「してますよ」 「してないです。一般的にどう見えるかという話だ」 即答。否定。 見上げた恋人の表情は不快に歪む。でも、ばればれ。一体何年傍に居たと思っているのだろう。 「大目に見て欲しいな。周一くんしか相談相手がいないの」 彼を刺激しないように、そっと告げながら寄り添う。 男の子というものは、往々に矜持が高い。名取に嫉妬するなんて可愛いところもある、と思いながらも内心に留めるのが吉。 「・・・私だって、どうしたら年下の男の子に飽きられないでいるか、勝負所なんだから」 ひとつ、誤算。言いながらこっちが恥ずかしくなり熱が上がった。 隠しておきたい本心を口にするのは、上手くない。でもそれで静司の心を惹けるなら、お安い御用だ。静司はただでさえ、その立場と権利で縁談話が多いのだから。 嫉妬しいなのは、私の方。 「馬鹿ですねぇ」 「静司くんもね」 恥ずかしさに負けてお互いに顔を背けたまま、ぎゅっと手を握り合う。 情けないことに、二人して顔は真っ赤だった。 120831 5周年フリリク、空木さんに捧げます。 |