古家の怪


週に一回訪れているお屋敷の門をくぐり抜けた時、いつもと違う空気を感じてぐるりと周囲を見渡してしまった。
嫌な変化ではない。ただ、それまでの多軌邸とは全くの別物であると感じさせるものだった。明らか何かあった、そう推測にすることは容易い。


「透ちゃん、このお屋敷大掃除とかした?割と大規模な」

「や、特にしてないです。まだ年末じゃないし」

「そっか…うん、ごめんなさい、それじゃあ気のせいね。なんだか雰囲気が変わった気がしたの」


透ちゃんは、小首を傾げる。私は誤魔化すように微笑んだが、彼女はちょっと考えてから、ああ、と声をあげた。


「――そういえば。この間、蔵の掃除をしていたら夏目君と田沼君が訪ねてきたんです」

「蔵って、お庭にあるあの立派なやつ?」

「はい。実は私の祖父がちょっと変わり者で、その遺品がたくさんあって。みんなで大掃除になっちゃったんですよ」


それだ。
蔵の話も、透ちゃんのお祖父さんの話も初耳だった。でも、きっとこれこそが私の感じていた”違和”の根幹にあることだと直感した。

多軌邸にはどこか普通ではない――妖が絡んでいる雰囲気を、元々感じていた。でもこの家は、祓い屋どころか見える人さえいない。なのに不完全な結界がいくつも張り巡らされ、妙な様相だった。前の持ち主か何かの厄介な遺産かと予想を立てていたが、”変わり者のお祖父さん”によるものなのだろう。

このままにしておくのは危うい。更に、なにやらまずい気配もしたので近いうちにこっそり祓おうと思ってはいたのだ。

(そもそも、その準備のために的場邸に帰ったんだけどね。七瀬さんには見つかるし、静司くんとは色々あるし)

ばたばたして対応が遅れていた。その間に、多軌邸から異質な気配の大部分が消えていたのである。

(それに夏目くん…か。透ちゃんと何かあったのだろうとは思っていたけど、アタリっぽいなぁ)

変化は、悪い物ではない。以前より清浄に感じさえする。まずい気配は無くなり、これなら殆ど普通の古い家だ。

(念のため、軽く妖除けでもしておこうかな)

…それは良いのだが、この変化はなにか大事が絡んでいるような気がしてならない。透ちゃんに大事はなさそうだが、本当に”無事”掃除が済んだのか怪しい。

(周一くんは夏目くんのこと、どれだけ把握しているのだろう)




「夢子先生?」


ぼんやり考え込んでいた私は、透ちゃんの声にはっとする。


「ああ、なんでもない。透ちゃんは夏目くんたちと仲良いんだなと思って」

「はい!二人は少し、私にとって特別ですから」


ふんわり笑った透ちゃんは、何かを思い出すかのように、遠くを見て続けた。


「周りは祖父を変わり者というけれど、私には大好きな祖父だったんです。だから、二人が笑って祖父の話を聞いてくれたのが嬉しくて」


透ちゃんの表情は、とても優しくて。
彼女がこんなに幸せそうなのだ。今はそれでいいのではないかと――私は、それ以上問い詰めることは、なかった。


141115



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