似て非なる女


夏目レイコの話は、以前から気になっていたのだ。
妖怪の見える人。酷く強い、美しいと言われるその女。妖怪の中で話題になっているらしいレイコの情報は、いくら探ってもそれしかわからなかった。
だから、夏目貴志がレイコの孫だと知って、歓喜したのである。伝説のように語られる人物は実在していた。そして、彼にレイコの影を見た。その姿にどこか、親近感を持った。

――やはり、似ている。

夏目は、幼い頃から大分苦労したようだった。両親が早くに亡くなり、親戚間をたらい回しにされる日々。更には、皆が妖が見えることに理解のない人たちなのだ。
祓い屋に生まれた自身でさえも、全くそういった苦労と無縁だったわけではない。見える目を持って生まれた者にとって、それは共通するものだったろう。

だから素直に、保護したいと思った。
理解の無い者たちと暮らすよりも、我々と来たら良いと。守ってやると。かつて――彼女に言ったように、この少年にも手を差し伸べた。特に、夏目貴志は危うい。妖に見入られている。”それら”はお前が思っているよりも良いものではないと。

だが、その好意は跳ねのけられた。


「そんなことない!そう思っていない人だっている筈だ!刈屋さんが祓い屋を辞めたのはそのやり方に嫌気が差したからだって――」


自分の言葉のどこが、彼の琴線に触れたのだろうか。語ったことは、真実である。でも、夏目は苛立ち声を荒げた。
でも引き合いに出した夢子の名前に、あっと言葉は途切れる。

――心が、冷え切っていく。

夢子が的場をよく思っていないのなど、今更言われなくともわかりきっていることである。だがそれを、他人に言われるのは面白くない。


「おや、夢子がそんなことを言っていましたか」

「ち…ちが…刈屋さんは、悪くありません!」

「随分親しいようですね。もしやとは思っていたが、夢子が貴方と知り合いだっただけでも驚きなのに、こんなに慕われているとは…色々、考え直す必要があるな」


自分で、声が低くなるなったのが分かった。


「あの人にも、困ったものだ。どこまで私を振り回せば気が済むのか」


慌てたような夏目の声は、心には響かない。問題は、今後どのような手を打とうというその一点だった。






「ねえ静司くん。一体何を怒ってるの?」


あの東方の森から帰るその途中。夢子は恐る恐る、隣から顔を覗き込んできた。


「貴女が気にすることではないですから」

「でも、私のことなんでしょ。気になるって」


困ったように口を尖らせる彼女に、思わず笑みが零れる。夢子はいっそう意味がわからないといった表情で首を傾げる。そんな様子が愛おしくて、彼女の手を握る。


「…いや。私も、初心に帰るべきですね」


――重なって見えたのだ。レイコと、夢子が。美しく強い、見える人。もし彼女のことを知れたら、夢子の為に出来ることも増えるのではないかと。

(でも、レイコと夢子は同じにはならない)

彼女が最後にどうなったのかはわからない。でも、孤独な人であったと聞いている。だから、同じにはならない。自分が居る限りは決して。
はじめから、そのために自分は居るだ。出会ったあの時から、大切な人を異形の存在からきちんと守れるようにと。


この腕の中で、幸せにするために。


140518



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