東方見聞のススメ、三


屋敷内の騒がしさに気付くまで、そう時間は経たなかった。
因縁の地だからか、久しぶりに妖狩りに同行させられたからか、なんだかそわそわと気持ちが落ち着かない。任された書類整理をしながらも何度か手を止め、辺りを見渡したりしていた。そんな時である。ばたばたと、屋敷内を走り回る音が聞こえたのだ。


「まさか、準備運動がてら走ってるとか――そんなわけないよね」


きっと妖絡みで何かが起きたのだろう。的場一門ではよく起こるようなハプニングが。例えば、結界内に妖が侵入した、とか。

(出ていったほうが、良いだろうか…)

迷った。もし大事ならば、人手は多い方が良い。私はそれなりに戦力になる。だが、下手に手を出すことは躊躇われた。的場に嫁入りする羽目にはなったが、祓い屋として一門を手伝いはしないという、その誓いは未だに続行中だ。それに、ここは東方の森。私に恨みを持つ妖が関係していたら、事態はより厄介になりかねない。

決意できないでいると、先に扉が勢いよく開かれた。現われたのは、一門の術者のひとりだ。


「夢子さん、侵入者です」


予想通りの言葉に、身構える。しかし、付け加えられた情報に唖然とした。


「先程捕らえた妙な少年が、屋敷内を逃走していまして…」

「…少年?」

「はい。どんな力を使ったのか、式を伸して座敷牢から出たようです。夢子さんにもしものことがあったらと様子を見にここへ」

「私は大丈夫よ。妖でも少年でも、私の敵じゃない。わかるでしょ、早く捜索に戻りなさい」

「はあ」


追い払うような仕草をすると、術者は困ったような表情をした。それでも、すぐに諦めたように退出する。ひとり残された私は…嫌な予感が的中したことに、頭を抱える。

(どうも心当たりがあるなぁ)

実際、”彼”が妖に対してどのような力を使えるのか聞いてはいない。でも、妖相手に直接手を下せるような高密度の霊力を持つ少年が、そう何人もいるとは思えない。

(どうやってこんな所まで来たんだろう)

疑問もあるが、こうなったら動くしかないだろう。
絶対に静司より早く夏目少年を探し出して、逃がさねばならない。


140126



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