東方見聞のススメ、二


その昔、私は的場一門期待のホープと呼ばれていた。中学生の頃である。
中学校への進学と同時に、祓い屋としての基礎スキルを身に付け終わった。そして当代随一の“才能の持ち主”として、本格的に妖祓いを請負いだしたのだ。それからはもう、あっという間に私のことは知れ渡った。同業者にも、妖怪たちにも。私のように若い祓い屋は、少なくなっていたからだ。

でも、きっかけがあったことは確か。
本格的に働き出す前、実力を確かめる為に私は修行へ出たのである。およそ一週間、ただ妖相手に暴れまわるという荒修行。もちろん、先輩の祓い屋にも同行してはもらったのだが、あくまで監視に徹底してもらった。だから私の独壇場で、修行は行われたのである。

当時は気にも止めなかったが、妖たちからすると良い迷惑だっただろうと思う。迷惑どころか、末代まで恨まれてもおかしくはない。
簡単に説明してしまうと、私は一帯の妖怪たちをこてんぱんにした。
妖怪がひしめいているような場所では、人が紛れ込むだけでも目立つ。そして襲ってくる。それらを容赦なく伸し、祓い、狩った。別に目的があったわけではないから、とりあえず人に害を与えそうなやつに的を絞って封じた。

余談だが、的場が好んで弓矢を術に使うように、私も大掛かりな呪術には刈屋家伝来の鎌を使う。鎌で刈り取るようなイメージである。
とにかく、そうして私はこの森――東方の森を制圧した。そしていつしか、首刈御前だなんて呼ばれるようになり、近隣の妖にまで名前が知れ渡ってしまったのだった。




「これを頼む」

「なにこれ…本当にただの事務処理じゃない」

「だから初めから、そう言っているでしょう。人手不足なんです」


東方の森、的場別邸。
半ば強制的に連れて来られた私は、頼まれた仕事に拍子抜けする。もっとこう、えげつない仕事を任されるのかと思った。


「まさか本当に雑用とはね。静司くんのことだから、また騙されたのかと思ったのに」

「しないですよ、そんなこと。ただまぁ、貴女の目を頼りにしている部分はありますが」


妖類に関しての目は、私の方が良いのだ。それくらい、五感が優れている。いや、これを第六感というのだったか。だからこそ日常では眼鏡で力を抑える必要が、あるのだけれど。


「では私たちは、外の仕掛けを見てきます。くれぐれも、夢子は屋敷からは出ないように」

「はいはい、行ってらっしゃい」


もちろん、眼鏡は外している。もし私があの首刈御前だと知れたら、戦闘は避けられない。言われなくても、もとより大人しくしているつもりだ。
と、彼からの視線。


「…どうしたのよ、じっと見つめたりして」

「いや。妻に送り出されるというのは、存外心地が良いものだな、と」

「私まだ妻じゃないけれど」


言いつつも、悪い気はしないので笑ってもう一度、行ってらっしゃいと繰り返した。


彼の背中を見送りつつ、思う。
…静司くん、厄介ごとを持って帰ってきそうだなぁ。



131204



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