東方見聞のススメ、一


現在の住居からは少し離れた場所にある、東方の山の麓に広がる森を、私たちは東方の森と呼んでいた。

東方の森は自然が豊かで、あまり人は踏み入らない場所である。ただし、人ならざる者は数多く居る。人間と妖の世界の狭間と説明するのが一番、しっくりくるだろう。

そこには的場の別邸があり、全盛期の的場一門はそこで頻繁に妖狩りを行っていた。ただし、遠い昔の話だ。今や別邸は廃墟も同然。長いあいだ使われていなく、ただ打ち捨てられていたのだ。


「それをよくもまぁ、ここまで整備したね」


数年前に頭領を継ぎ、一門を立て直すと言い放った静司は、その言葉通りに精力的に一門の活動を広めている。かの東方の森の別邸も、使用できる程までにいつの間にか整えていたのだ。
ここだけではない。今まで使われていなかった拠点を全て洗い直し、大規模な妖狩りに乗り出すつもりらしい。


「その意欲は尊敬するけれど、やりすぎもあまり感心しないわ」


静司の意欲とは裏腹に、この業界は衰退しかけている。
政治家相手に占い、助言などを行うことでなんとか収入は得ているものの、あまりにも妖怪を信じない者が増えすぎた。一部の人間を除き、私たちのような者は認知されなくなってきている。

的場一門は、祓い屋の仕事をこなす以外に、“見える者”を保護する役割も担っている。だから、家業を止めるわけにはいかない。見える者が少なくなっている今だからこそ、一門はその者たちの受け皿でいる必要があるのだ。
その為に、組織を維持する為に、強大な妖との繋がりは必須。なのだけれども。


「恨みを買いすぎるのは、よくないでしょう」

「おや、それを貴女が言いますか?」


私の助言を、静司は鼻で笑った。


「さぞ懐かしいだろうね夢子。どうだい、思い出ついでに昔の真似事でもしてみたら」

「冗談が過ぎるよ、静司くん」

「はは、怖い怖い」


あまりの言いように睨み付けると、彼は肩をすくめて笑う。
だから、ここには来たくなかったのだ。そもそも、打ち捨てられていたからこの別邸を私は利用していたのであって、また戻ってくるだなんて完全に想定外である。

東方の森。かつての私の活動拠点の中心。
修行したあの頃の、いわゆる黒歴史というやつが詰まった場所。

あの不名誉な「首刈り御前」の名を賜ったのも、この場所なのである。


131025



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