三者三様、二 それぞれが困惑した顔で、お互いの顔を見つめていた。その光景は余程、奇妙なものだっただろう。注文を受けに来たウェイトレスが引きつった笑みでオーダーを取っていた。 「ええと、少し状況を整理しようか」 口火を切ったのは、眼鏡を押し上げた名取さんである。ちなみに名取さんは刈屋さんの隣に座り、向かいには夏目が居る状態である。ニャンコ先生は刈屋さんの向かい側の席でじっと彼女を見つめている。 「夏目は、彼女のことを知っているのか?」 「あ、はい。話したことは一度だけですけど」 「話って、どんな?」 「え、いや、挨拶くらいです」 硬い表情で問い詰める名取さんに面食らっていると、その横で、刈屋さんが困ったように口を挟む。 「やだなぁ周一くん、怖い顔しないでよ。夏目くん吃驚しちゃうでしょう」 それから、眉尻を少し下げて続けた。 「私と夏目くんは偶然会ったのよ。ほら前に言ったでしょ、家庭教師をしている子が夏目くんの友達だったの。・・・でも、ごめんなさい。夏目くんのこと黙ってたのは意図的。そもそも私、夏目くんにはノータッチで行こうと思っていたから」 「夢子、僕と夏目のことは・・・」 「この前小耳に挟んだの。すっかりウチでは噂になってるわよ」 二人は顔を突き合わせて、なんだか良く解らない言い争いをし始めた。どうやら名取さんは夏目のことを、夢子さんに知られたくなかったらしい。勿論、妖関係の話だろう。ということはやはり彼女もその筋の人なのか。 話はどんどん夏目の解らない方向へ進む。夏目は、慌てて間に割り込んだ。 「あ、あの、刈屋さんは一体・・・」 名取さんと刈屋さんは顔を見合わせて、話を中断する。そして、口を開いたのは刈屋さんの方だった。 「改めまして、刈屋夢子です。周一くんとは高校の同窓生で、腐れ縁なの。――そうね、元祓い屋といえばいいかしら」 そう言って、彼女は眼鏡を外す。たったそれだけの違いで、彼女の雰囲気はがらりと変わったような気がした。 「元、ですか」 「そうだよ。夢子は優秀な祓い屋とある筋では有名だったんだけど、高校卒業と共にすっぱり辞めて都会の大学に通ってたんだ」 名取さんのどことなく刺がある発言に、彼女も肩を竦めながら続ける。 「最近帰ってきたばかりなの。ああ、透ちゃんの家庭教師の件は本当に偶然だから安心してね」 夏目の顔色を見て、付け足すように言う。どうやら顔に出ていたらしい。もし偶然でなくて祓い屋(元、であっても)が多軌の家に出入りしていたりしたら、と思うと背筋が凍る思いである。彼女は普通、妖を見るような子ではないのだ。できるだけそういったことには、関わらないでほしい。 (でも名取さんとこんなに親しくしているということは、信用できる人なのかな) 最初は警戒していたが、名取さんがこんな風に紹介してくれるのだ。夏目は安堵に心をなで下ろしながら笑った。 「実は、名取さんに刈屋さんのことを聞こうと思っていたんです。ニャンコ先生が妙なことを言うから――彼女から、的場さんと同じ匂いがする、だなんて」 同じ祓い屋だからといっても、名取さんと的場さんの間には相容れないものがある。彼女は名取さんと交流が深いようだし、彼女が祓い屋を辞めたのは的場さんのように無理に妖を使役するのに嫌気が差したからではないのだろうか。だとすれば、刈屋さんと的場さんを一緒にするのは少し失礼な気がする。 しかし、彼女は感心したよう笑う。 「あら、猫ちゃんは相当良い鼻をしているみたいね」 そして名取さんは呆れたように言葉を吐いた。 「夏目―――夢子は今も昔も、的場一門の人間だよ」 130417 |