三者三様、一


日曜日、天気が良かったのでニャンコ先生を連れて町の方へ足を伸ばしてみることにした。町に行くと言ったのは夏目ではなく、ニャンコ先生の方である。なんでも、期間限定で話題の和菓子を売っているのだとか。先生はどこからかそういう、美味しいもの情報を拾ってくるのだ。
特に用事も無かったし、夏目は了承した。実を言うと、こうしてゆっくり散歩もいいなと思っていたところだった。近頃は事件がたて続き、少しまったりしたかったのだ。

(自分だけならいいものの・・・田沼や多軌を巻き込んでしまったから)

文化祭、その後の鏡事件。両方とも、大切な友達である田沼と多軌も関わったものである。夏目は自身が妖に関わることには慣れてきたが、自分の大切な人がそれらに近付くのには抵抗があった。巻き込んでしまったのだからどうしようもないし必ず解決してみせると思っていはいるが、それでも彼らに万一がない様に気を張っているのはとても、心臓に悪いことだ。

もっと頼って欲しいと言ってくれる二人には悪いけれど、夏目としてはやはり二人には安全なところで待っていて欲しい気持ちが強かった。

(そういえば、あの文化祭に刈屋さん来ていたんだよな)

多軌や田沼から聞いた話を思い出す。
刈屋さんは、多軌の家庭教師の先生。一度道で会って、紹介されたことがあるのだ。すらっとした体型の、さっぱりとした印象の女性。会ったのはたった数分で、言葉もまともには交わしていない。それでも印象的なのは、去り際の些細な仕草が気になっていたから。

(あの時、感じた妙な気は何だったんだろう)

彼女はニャンコ先生を触ろうと手を伸ばしかけ、しかしすぐに取りやめた。その時に、不自然さと妙な気配を感じたような気がしたのだ。
それだけだったら気のせいと割り切っただろうが、ニャンコ先生までもが彼女を気にしていたので余計に記憶に焼きついている。

先生は、彼女が的場さんと同じような匂いがするといった。ということは、もしかしたら妖に関する人なのかもしれない。祓い人なのだろうか。それとも、夏目のように見える力を持っているだけだろうか。だけれど、もし彼女が「こっち側」だとしたら、気になるのは多軌のことだ。どうしてそんな人が多軌の家庭教師をしているのだろうと、勘ぐってしまう。

答えの出ない問いに頭を悩ませながら歩く。すると道の向こう側に見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「あっ先生、名取さんだ。折角だから挨拶していこう」


街路樹に寄りかかるようにして背を向ける彼に、どんどん近づいて行く。丁度、聞きたいことがあった。もし彼女が「こちら側」なら、何らかの情報を名取が持っているのではないか思ったのだ。


「待て夏目!!」


ニャンコ先生の静止も聞かずに、夏目は名取の元へと駆け寄り肩を叩いた。


「名取さん、こんにち・・・は・・・?」


しかし、途中で言葉は途切れる。名取さんは、一人ではなかった。彼の向かい側に女性が一人、立っていたのである。
だが夏目が驚いたのはそこではない。彼女はつい先程まで想いを巡らせていた女性だったのである。


「な、夏目?!」


驚く名取さんをよそに、夏目と目の合った彼女、刈屋さんは困ったように笑った。



130416



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -