学び舎騒動、一


「文化祭?」

「そうなんです。だから今、準備に忙しくって」

「いいなあ、楽しそう」

「良かったら夢子先生、来てください!」


そんな訳で、私は透ちゃんの学校の文化祭に来ていたりする。教え子の学校生活を把握するのもまた、家庭教師の仕事の一環。何より、透ちゃんが楽しく過ごしているところを見たいと思った。

(でもまぁ、他に知り合いはいないわけで)

元気な学生に混じって、大人ひとり寂しくまわるわけですが。確か透ちゃんは、五組だった筈。もらったパンフレットを眺める。と。


「あ、多軌の家庭教師の先生」

「あら。あの時のお友達」


ばったりと、見覚えのある男子生徒と遭遇。少し背の高くて、前髪が長めの彼である。


「ええと、田沼くん?」

「あ、よく覚えてますね」

「透ちゃんが沢山お話してくれるからね。田沼くんと夏目くん、あと夏目くんの猫ちゃん」


透ちゃんの話に出てくる登場人物トップ3だ。実際に会ったのはたった一度だけれど、話に聞いているからかあまり他人な気がしない。
田沼くんも同じ感覚なのか、気さくに答えてくれる。


「俺もよく聞きますよ。夢子先生、ですよね」

「先生だなんて立派なもんじゃないよ、家庭教師は単なるアルバイトだし。夢子でいいわ」


透ちゃんにも同じように言っているのだが、彼女は自ら好んで私を先生と呼んでいるんぼで、直りそうにはない。
田沼くんはちょっと迷うような素振りを見せたあと、どこか照れくさそうに私の名を呼んだ。


「夢子・・・さんは、これから多軌の所ですか?」

「ええ、でも折角だから他も見てまわろうかな。どこも楽しそう」


思ったよりも、学内は盛り上がっている。様々な方向から聞こえるざわめきに、見ているこちらも楽しくなってくる。
普段はあまり、縁のないこの空気に酔ってしまいそう。


「田沼くんのクラスは、何をしているの?」

「演劇なんですけど、丁度今は休憩で」


そこまで言って田沼くんは、落ち着きなくそわそわと視線をさまよわせた。口からは、あーとか、うーとか、よくわからない呻き声がもれる。そして、ちょっとぶっきらぼうに、素敵な提案が持ちかけられたのだった。


「良かったら、俺案内しましょうか?」



121025
田沼とデートフラグ。続きます。



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