変わる女、変わらない男


それで、と話を促されて私は行儀悪くくわえていたストローから口を離す。
ピンクとオレンジの色が鮮やかな甘いカクテルからは、アルコールが殆ど感じられない。こんなに薄いのにこの値段では、ぼったくりではないのかと少し思う。


「落ちたの?」

「・・・落ちたよ!どうしようもないじゃん!どうすればよかったのか教えて欲しいよ!」

「逆ギレされてもね。ま、そうなると思ってたけど」


必死な私とは対照的に、名取は手を叩いて笑う。酷い。ここまでの経緯を話すのだって大変だったのだ。かなりの羞恥を伴う。更に悪いことに、名取はいちいち爆笑した。


「夢子、的場さんのこと大好きだったじゃない」


ひぃひぃ言いながら聞き終えた彼は、私の最大の的場への譲渡を、軽い一言で片付ける。すっかり人生を的場一門に捧げる気になっていた私が、馬鹿みたいだ。


「言うほど大好きじゃないし。大好きなのはあっちだし」

「それは否定できないね。なんでさっさとくっつかないのか、私は意味がわからなかったよ」


ねぇ、と自らの式に同意を求めている。そして、それに頷く式たちに私はげんなりした。ここには味方がいない。


「夢子も人妻かー。これはいよいよ、スクープされたらまずい内容だな」

「残念。周一くんの俳優生命も終わりだね」

「その前に的場さんにギタギタにされるのを覚悟しなくちゃ」


ああ見えて彼は心が狭いからね、と名取は笑った。静司は心が広いどころか明らかにいじめっ子気質な奴だ。
一方名取はいじめられっ子に近いものを持っているようにするのだが、しかし、不思議と名取の方が静司より余裕な気がする。


「結婚式には呼んでよ」

「だから、当分は結婚はしないって。あくまで婚約だけ」


押し倒され、流されるように結婚を承諾したあの後を思い出す。

タイミングを見計らったかのような七瀬からの電話で、粗方の詳細を知らされたのだ。それによると、結納と顔見せだけ先に済ませれば、急ぐ必要はないとのこと。まだしばらくは、優雅に独身生活ができるらしい。

(七瀬、どうせならもうちょい、早く連絡してくれても・・・)

そうすれば、静司の毒牙にかかることはなかったかもしれない。が、あのタイミングの良さ・・・まるで図ったようだったので無駄に勘ぐってしまい、真実を知るのが恐ろしい。


「今住んでるところも引き払わないしさ。的場邸と半々、行き来することになるかな」

「次の催しには夢子が披露されるんだろうね」


名取は、不意に優しく微笑みグラスを掲げる。


「おめでとう」

「うん、ありがとう」


私のグラスとぶつかって、カチン、と小さな音を立てた。
甘くて薄いカクテルも、静司との結婚も、悪くないと思っている自分がちょっぴり悔しく思えた。


120615



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