弁慶とホワイトデー


私は、和菓子が好きだ。洋菓子も好きだけれど、和菓子の洗練された美しさや控えめな甘さの前には、どうしようもなく敵わないと思わされてしまう。
だけれども、急に差し出されたそれに飛びつくほど単純ではない。


「えっと、これ、なんですか…?」

「貴女、和菓子好きでしょう。あげます」


相変わらずの無表情(私に対してだけだ)を浮かべた弁慶さん。その彼の手に乗せられているのは、なんとも美味しそうな椿餅。
確かに椿餅も弁慶さんも好きだけれど、私への風当たりが強めな弁慶さんが私にそれをくれる理由がわからない。弁慶さんが私にものをくれることなんて少ないし、いくら彼の持つそれが私の好物だといっても、仏頂面で差し出されたら何かの仕置きかとも勘ぐらざるを得ない。
反応に迷っていると、ぽかんと開いた私の口に、弁慶さんは強引に椿餅を詰め込んだ。


「おいしいですか」

「は…はひ…」


びっくりして目を白黒させたまま、弁慶さんの問いに頷く。いや、確かに美味しい。ほんのりとした甘さが口に広がる。で…でも何で…?!
その疑問に答えるかのように、弁慶さんは小さく呟く。


「この前、君がくれた菓子。とてもおいしかったからお返しです」


そして背を向けてしまった弁慶さんが、なにやら落ち着かなかったことに私はその時は気付くことはできなかった。
後日、弁慶さんが私の好物をわざわざ朔ちゃんに聞いていたことが判明。その貴重なデレに、にやにやしてしまったのは私だけの秘密だ。



140316



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