伊作と友チョコ


「どうしたんだろう」


今日の甘味処はなんだかあわただしい。店内に人は少ないのに、お持ち帰りで甘いものを注文するお客が多いのである。


「今日は南蛮では、恋人に甘いものを贈る日なんだって。最近話題で皆こぞってこの日を待ち望んでたんだけど…伊沙子ちゃんは知らなかった?」

「うん、こういうの疎くて…」


伊作は、今日も女装で町に来ている。同行者は言わずもがな、ひそかな想い人である。

(疎いも何も、女の子の流行なんて僕知らないし…)

なんて思いながら、そういえば、くのたまたちがこのところ食堂を占領しているだとかいう話があったなと思い出す。そうか、そういう意味だったのか。伊作は町へ出てきたから良かったが、学園内ではくのたまが(恐らく何らかの薬入りの)お菓子を忍たまに振る舞っているのだろうと推測した。良かった。助かった。
と、隣に座る彼女は突然伊作の膝に何かを置いた。


「はい、いつものお礼。伊沙子ちゃん」

「え…え?!」

「あ、びっくりしてる」


それは、この町で一番人気があるという焼き菓子屋の包みだった。今の話の流れからすると、これは彼女から好意の相手へと渡される筈のもので…。


「恋人だけじゃなくって、いつもお世話になってる人や友達にも贈るんだよ」


動揺する伊作に、彼女は笑いながら付け足した。それから、可愛らしく伊作の顔を覗き込む。


「もらってくれる?」

「う、うん!ありがとう…!」


至近距離で微笑まれ、思わず赤くなる顔を隠すように伊作は俯いた。彼女には言えないけれども、伊作にとっては本命の相手からの甘味。彼女にとってはただの友情の証なのだろうが、伊作にとっては思わぬプレゼントに舞いあがってしまうのは仕方のないことで。

(ああ、なんて素晴らしい日なんだろう…!)

その時の伊作から、自分が不運であるという自覚はきれいさっぱり消えていた。



140214
きっとこの後穴に落ちます。
連載本編と時間軸一致してないので、IF的なあれとしてあんまり気にしないでください。




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