スパナと本命チョコ


「はい、ハッピーバレンタイン」


日付が変わった途端に渡されたプレゼントに、私の恋人であるスパナは目を瞬かせた。いつも通りの日常。今日も徹夜で作業。だけれども、女の子にとっては特別な日のはじまりだった。
スパナはしばらく渡された箱と私の顔を交互に眺めていたけれど、すぐに納得したように笑顔になった。


「ありがとう、開けていい?」


頷いてみせると、スパナは楽しげに包みを開けていく。そして、中に入っていたものに目を輝かせた。


「スパナ型のチョコ…」

「えへへ、頑張ってみました」


今年は、小さく色々な形を象ったチョコレートを詰め込んでみたのだ。定番のハート型や星型に混ぜて作ったのは、スパナの象徴であるスパナ型。思っていたよりも喜んでもらえたようで、苦労した甲斐もあったというものである。


「コーヒー、淹れるね。ちょっと休もう?」


と、立ちあがりかけた私は、突然手を引かれてスパナの膝の上へと乗せられた。どうしたの、と驚きつつも問えば、彼は何やら後ろ手で机の下を探っていた。


「ちょっと、ちょっと待って。ウチも渡したいもの、ある」


取りだされたのは、花束である。片手に収まる、ミニブーケ。それでも、使われているのはなんとも鮮やかな赤いバラ。


「え…これ…」

「イタリアでは、バレンタインは男から女に花を贈るのが主流なんだ。ウチも今年は、ウチの大切なお姫さまに花を贈りたいって思ってた」


なんて、笑顔で言われたら驚きを上回るときめきを隠しきれるわけがなくて。


「これ以上、スパナを好きになっちゃう…どうしよう限界が見えない…」

「なっちゃえばいい。ねえ、ウチに溺れて?」


こんなときばかり、しっかりとイタリア仕込み。
そんな彼が愛おしくて、私はその首に腕をまわした。



140214
安定のばかっぷるです



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