肌寒い土方さん


土方さんは乙女心というものを、何もわかってない。と思う。

土方歳三と言えばこのあたりでは名の知れた色男だ。花街を歩けば他の男たちが芋に見えるくらい素敵だとか、彼が囁けば恋に落ない女はいないとか、誰某の嫁が彼に寝取られたとか、兎に角そういう噂の絶えない人だ。
女の扱いには勿論慣れていて、当然だと思う。いや、そう堅く信じていたのだ。

(……それなのに!)

私は今、もしかしてその印象は、尾鰭の付きまくった噂に過ぎないのかも、と疑っている。

私はご近所ということもあり、近藤先生の道場で、前から色々お世話をさせていただいていた。土方さんと知り合ったのは、その近藤先生の引き合わせだった。
一目惚れだった。でも、名前を聞いてすぐに諦めがついた。流石に、噂の色男に振り向いてもらおうなんて無茶と思ったのだ。なのに。


「あの、あのあのあの…!」

「なんだよ、騒がしいな」

「えっすいません!じゃなくて、何で今日は私をお誘いになったんです!?」


土方さんは焦る私に、呆れたような目を向けた。勘違いしてしまいますよ、と声を大にして叫びたい。

最初は、お買い物に荷物持ちとして付き合ってくださったのだ。それから、彼が姉上様に贈り物をするからと見立てるのを手伝わされた。近藤先生が出掛けるからと、二人で留守を預かった。それから、それから。

そうして、なんとか土方さんと接する機会が増えたな、と思ったところで彼に呼び出されたのだ。お昼過ぎに門前で、と。

(また何かの用事かと思ったのに!)

待ち構えていた土方さんに、町へ連れ出されて吃驚した。ついて来い、どこか行きたい店はないのか、好きな食べ物や色を教えてくれ、だって。

まるでこれでは、恋人同士の逢引である。でもまさか、私みたいな小娘に土方さんが興味を持つなんて信じられなかった。

(でも、もしかしたらこれが現実の彼、なのかもなぁ)

さっきから土方さんは挙動不審だ。
もしこれが逢引だとしたら、あまりにもぶっきらぼうだ。まるで初めて逢引しましたというくらい、ガチガチの態度なのだ。
女の子もそれじゃあ寄り付かないと思う。

ぼんやり考えていたら、急に手を引かれた。


「えっ!」


絡められた指、繋がれた手に驚いて土方さんを見上げると、彼は手はそのままに目を背ける。


「あーその、だな」


じわり、と彼の頬が色付いた。


「…近頃寒いだろ。ちょっと人肌が恋しくなっちまって、だ。お前も目を離すとどっか居なくなりそうだし、そ、それだけだ!」


自分に言い聞かせるようなその台詞。今時、子供だってもう少しましな言い訳をするんじゃないか。でも。


「そうですね。寒いですし、ね」


なんだか彼が可愛らしく見えてきてしまって。せっかくの機会だから、その話に乗ることにしよう。



131020〜
実はあんまり遊び人ではない彼もいいかと思って。




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