励ます名取


「随分綺麗にしたね」

「名取くんは、気にならなかったの」

「気になったけど、面倒だったから助かった」


まだ始業時間には早い。他のクラスメートの来ていない教室で、私は名取くんに話しかけられた。学校に巣くってた、雑魚妖怪を一清した直後である。
彼はこの学校で唯一、私の事情を知る人。そして、見える人だった。


「何か悩み事?」


けれども、仲の良い友達などではない。どちらかといえば、商売敵である。だから、そう尋ねられて動揺した。


「以前の君なら、嬉々として妖怪を狩っただろうに、それではまるで後悔しているみたいだ」


もしかして、私はわかりやすいのだろうか。正確に悩みを探り当てられ、否定するより先に驚いてしまう。彼は私の弱味でも握るつもりなのだろうか。


「…私にも、色々あるのよ」


そんなことを勘ぐりながら、言葉を返す。けれども名取くんは、意外にも穏やかな顔で言った。


「おれで良ければ聞くけど?その様子じゃ、家の人にも言えないことなんだろ」

「…え」

「別に、味方になったわけじゃない。でも同業者のよしみで、寄っ掛かるくらいは、させてあげる」


本日二度の驚きに硬直していると、名取くんはそっと私の手に触れた。彼の手が思ったよりも温かくて、思わず、私は頷いてしまうのだ。



シリーズ仕様、高校生なふたり。
120427



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