励ます土方先生


あーあ、

と、何度目だかわからない溜め息を吐く。放課後、三階の教室の窓から眺める校門、まだピカピカの制服の新入生。ついこの前までも自分もその中へいたのに、それはもう随分前のことのように思う。
はしゃぐ女子生徒に顔をしかめた。この憂鬱な気分は、それだけが理由とは言わないが、それが原因のひとつであることは確か。


「…古典わかんねぇつって呼び出しておいて、俺が教えるのはそんなに不満か」


土方先生は、上の空で外を眺める私を咎めた。しかし、私は反省もせず唇を尖らせる。


「土方先生、なんで一年生の担任なんですか」

「俺が選んだわけじゃねぇよ。それに、授業自体はお前ら三年のクラスも持つ」


わかっている。先生はみんなの先生で、私は大勢の中のひとり。仕方ない。我慢するって約束した。でも不安なのだ。


「…土方先生、ロリコンだからきっと可愛い一年女子に絆されちゃうんだ」

「俺はロリコンじゃねぇよ」

「生徒に手を出した時点で十分ロリコンです!」


素敵な大人の男性である土方先生が、私の言葉に頷いてくれたのは、制服女子高生にくらりときたからだと思う。だって、そうだ。私は、先生に釣り合っていない。
そして、私は今年が終わったら卒業する。制服を着なくなったら、飽きられてしまう。卒業したら、今のように土方先生とずっといられなくなる。
だから4月に入ってからずっと憂鬱だったのだ。


「…未来の姿を見越して惚れたんだよ」


うなだれる私を眺めていた先生は、しばらくして言った。優しく頭を撫でられ、顔をあげる。土方先生は、先生じゃない、大人の男性の顔で、囁いたのだった。


「制服なんて早く抜いでしまえ。早く、俺に釣り合う女に、なれよ」



(貴方が望むなら、未来まで走っていきたいよ)


120427



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