其の四 指定されたその場所は、町の一角にある小さな店子だった。こじんまりとしたそこは、通りに面して戸が開かれている。ただ、商売する気がないのか表に品物は出されて出されていない。 ゆきの背後には都、瞬、チナミ、龍馬、そして桜智がついていた。一行を出迎えたカオルは綺麗に微笑み、ゆきの話に耳を傾けている。 「今居る、私の仲間です。神子のことは私だけの問題じゃないから、みんなで聞こうって話になって」 「まだ半数なのね。それじゃあ、ゆきちゃんはまず八葉を探す必要があるわね」 龍神の神子の力は、八葉が集まらないと万全にはならないらしい。それを聞いて少々不安になる。しかしカオルは、でも、と付け加えた。 「大丈夫だと思うわ。かつての神子の中には、最終局面まで八葉がまとまらない場合もあったようだもの。ただ、今はかつてない乱世だからどの立場にいるかで対応が難しいかな――さ、狭いけれど入って頂戴」 足を踏み入れたその店子の、左右の壁には多くの書物が山積みになっている。ジャンルは様々なようで、意外にも娯楽ものもあるようだった。 「貸本をしてるのよ。でもあなたたちに必要なのは、この奥にある秘蔵のもの」 店の奥は住居になっていた。 促されるまま部屋に上がる。カオルは隠し戸を開け、数冊の冊子を運んできた。 「昨日、ゆきちゃんに合ってからいくつかのものを選別したわ」 差し出されたものを、ゆきは捲ってみる。この世界の崩し字は読み取るのが難しい。けれど辛うじて、「神子」という記述を見つけることができた。その横で瞬や都も同じように別のものを手にしている。 「君は・・・・・・星の一族か?」 不意に、訪ねたのは瞬だった。その声色は神妙なもので、質問というよりも確認といった類に近いもののように感じる。 「違うわ」 が、きっぱりと彼女は否定した。納得できないといった表情の瞬に、桜智が呟く。 「カオルは・・・神子伝説に関するものを、長年・・・収集し研究してきたんだよ」 その発言を肯定するように、カオルは付け加えた。 「名乗るとしたら研究家というよりも、蒐集家、でしょうけど」 120724 |