其の二 突きつけられた問いに、ゆきはとっさに答えられずにいた。とにかく、何もわからなくて、織部文鬼なる人に会えば現状が打破できるのではと思っていたのだ。 「"文鬼"の正体は一般には知られていない。だからこそ、私を捕まえてものを尋ねようとする人には、きちんと協力することにしてるの。それが、"文鬼"としての誇り」 彼女は、柔らかい表情にほんの少しの険を混ぜる。 詳しくは知らないが、文鬼はプライドの高い人物らしい。だからこそ一度認めた者は見放さない――文鬼を追う中で耳にした、噂のひとつである。 「私は・・・龍神の神子でありながら、神子について何も知らないんです。だから、なんでも知りたい」 "文鬼"を名乗る彼女は、確かに何でも知っていそうだ。しかし、ゆきには自身にそれを問う資格があると思えなかった。 「でも、私は自分で文鬼さんを探し出したわけじゃない・・・龍馬さんに随筆のことを聞いて、桜智さんに教えてもらっただけだもの。だから、自力でたどり着いていないから、聞く価値はないのではないでしょうか」 「・・・貴女は、本当に優しい子」 ゆきの訴えに、彼女はぽつりと返す。 それから僅かに浮かばせていた険を、表情から取り払った。 「八葉が私の協力を得よといい、神子がそう決めたのなら、私はそれに従う。・・・ずっと決めていたの」 「・・・・・・え?」 「情報屋として名高い"夢の屋"が、それを良しとするならば尚のことだわ」 ゆきの背後にいた桜智は、彼女の言葉に僅かに口元を引き締める。 都はおや、と首を傾げた。桜智のそのような微妙な態度を見るのは初めてだ。この織部という人が協力してくれそうなのはわかったが、彼女と桜智の関係は謎のままである。 「一つ、聞かせて欲しい。なぜ神子にそこまで詳しい?」 まとまりかけていた場に、水を差したのは瞬である。だがそれは、皆が疑問に思っていたことだった。 しかし彼女が答えるより先に、桜智が助け舟を出す。 「その話をするならば、長くなる。でも桐生さん、大丈夫だよ。カオルはどの勢力にも属さない。そして、神子に惜しみなく協力するだろう」 ――ゆき以外にはやる気のない、こいつが。 普段の桜智を知っている一同は、目を丸くした。が、当の織部カオルには特に驚いた様子はみられなかった。 120712 |