▽蒐集家


あんみつ、葛餅、大福、きんつば・・・
目の前に並べられた沢山の和菓子に、ゆきの目は否応なしに釘付けにされた。


「いっぱい、遠慮せず食べてちょうだい。此処の店主とはちょっとした知り合いで、融通が利くのよ」


艶やかな笑みを浮かべた女性は、抹茶を差し出しながら促す。ほらほら、と急かされ、しかしそれでも尚戸惑いを見せるゆきに、彼女は眉尻を下げた。


「食べきれない分は、包んで帰れば良いわ。他のお仲間の分も用意させましょう、それで良いかしら」

「えっ・・・いいんですか?」

「お安いご用よ。貴女は龍神の神子だものね、八葉を気にかけているのでしょう。優しい子だわ」


そこまで言われてしまうと、断る理由が見つからない。そろそろと手を伸ばし、葛餅を口に運ぶ。


「おいしい!」


絶妙な甘さと食感。文句なしの美味しさに、自然とゆきの顔が綻ぶ。すると彼女、織部カオルも嬉しそうな表情をした。


「良かった。龍神の神子に――・・・ゆきちゃんに、ずっと何かしてあげたいと思っていたの。本当に、良かった」


織部カオルという女性は、目立つ風貌をしている。最初に目にした時も思ったことだが、間近で目にすると一層意識させられた。
しかし、だからこその違和感もある。


「それで・・・・・・貴女が何者なのか、教えて欲しいんだけど?」


桜智が声を掛けてから、彼女に促されるままにこの甘味屋に連れ込まれてしまったのだ。融通が効くのは本当のことらしく、ご丁寧に奥の座敷に通された。
桜智と知り合いだと言うし、害はなさそうだと黙っていた都だが、ゆきへの構いように少しだけ嫉妬心を覚える。


「あら、ごめんなさい。自己紹介もしてなかったわね。織部カオルよ」

「・・・文鬼じゃなくて?」

「文鬼は筆名。どちらも私を指す名前に違いはないけれどね。それで、貴女は黒龍の神子かしら」


自己紹介がまだなのは、こちらもなのだ。名乗ったのはゆきだけだったので、あっさり正体を看破された都は、目を丸くした。
域を止めた都に代わり、声をあげたのはゆきである。


「わかるんですか?!」

「なんとなく、だけれど。それにその神気は並みのものでは、ないわ」

流石、桜智の知人といえばいいのか。普通の女ではないと一同は口を閉ざす。が、すぐにカオルは笑い声をあげた。


「・・・・・・なんて、冗談。原則、八葉でない異邦人は時空を超えはしないから、そうかと思っただけ。私は只人だから気配なんて察せないわ」


それから、改めて問う。


「"文鬼"に用事なのでしょう。一体、何が聞きたいの?」






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