其の六


*


「…懐かしい、夢ね」


どうやら、本を読んでいるうちに眠っていたらしい。窓から差し込む光は、いつの間にか橙に染まっていた。

未だに思考が上手く働かない。資料を探している最中に寝てしまうなんて、久しぶりだった。
そんなに疲れていたわけではない。寝不足だったわけでもない。でも…やはり少し緊張していたのだろう。――白龍の神子に出会った、その興奮で知らず知らずに気を張っていたのだ。

私の祖先は昔、白龍の神子に関わっていたらしい。それは祖先にとってとても誇りに思うべき出来事だった。その記録を大事に大事に、今の私まで受け継がせるほどに。そしてその物語を聞いて育った私は、いつかこんな日がこないかと切望していた。
つまりは龍神の神子と出会い、彼女の助けになるその日を。

(彼女は――ゆきちゃんは、想像以上の神子様だわ)

汚れのない乙女。清らかで気高く美しい神子。
それは私の思い描いていたその姿そのものだった。そして私がそう思ったのだから、もちろん彼も同じように――いや、それ以上に心を震わせただろう。

(当然よ。だって遙か昔から彼の心は――)

夢の余韻に浸るように私は、瞼を閉じる。
あの時のことは、未だに鮮明に思い出せるのだ。小さな唇が伝えたその秘密に、私の心は打ち震えた。

(「――私の血筋はね、鬼の頭領の末裔なんだ」)

悲しげにさえ響いたその言葉。
願うことならば神子の八葉になりたいと喘いだ、その願いは、成就したのだ。


「ああ…良かったわね、桜智」


胸が、締め付けられる。嬉しくてたまらない。愛しい彼の願いが叶って、喜ばずにいられない。そこに嫉妬なんてない。だって知っている、彼はずっと恋していた。私が彼に恋をするより前からずっと。


だからとても、嬉しいのだ。
嬉しくて嬉しくて、涙が止まらないのもきっと、そのせいだ。


150405



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