▽文ノ鬼


――目下、現在我々の不安を掻き立てていることといえば、南蛮人の襲来である。日本国は今まさに、危機を迎えている。しかしながら、外敵の襲来という観点で歴史を紐解けば今回が初めての危機ではないということはわかりきったことである。そもそも、大陸との関わりは古来より多く行われていたのだ。…(中略)… 面白いのは、伝説にのみ語り継がれるある事象。鬼の襲来、溢れる怨霊…歴史上、何百年かごとに平安の都はどうしようもない惨事に幾度か見舞われている。けれども正式文書に鬼や怨霊といった字はなく、ただ飢餓や内乱といった言葉で済まされている。だがよく史料を調査すれば、そこへ理解しきれぬ力が働いていることが確かだとわかる筈だ。

伝説は、それを救ったのは一人の少女だと伝えている。天より舞い降りた、清純可憐な少女――龍神の神子によって。


【ある随筆より抜粋】










織部文鬼という名前には、聞き覚えがあった。夢の屋について調べていたときに聞いた名である。
織部は「夢の屋」と対比して「現の織部」と称されることもあり、夢の屋の情報に対して、辛辣に批判・意見を呈しているという点で評価が高い。夢の屋が瓦版を出すと即座に、それに対抗したような随筆を載せた瓦版を、文鬼は書くのだ。
しかしその本業は小説家であり、夢の屋批判は気晴らしにすぎないらしい。ちなみに文鬼の小説は、瓦版の辛辣な文面からは想像できない程の幻想的かつ優美で繊細な世界観で、大名から民草にいたるまで人気を誇っているという。


「"織部文鬼"にならば、あるいはわかるかもしれないぜ」


"龍神の神子"についての情報が少なすぎた。ゆきは、突然龍神の神子として異世界との行き来をすることになったが、"神子"のことをまるで知らない。そんな折、龍馬が持ち出したのが織部文鬼の名だった。


「織部は昔、一度だけだけれど龍神の神子について供述したことがある」


龍馬は、したり顔で笑った。


「それに、織部は夢の屋とよく並んで評されるだろ?もしかしたら個人的な関わりがあるのかもしれないと思うんだが」






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