其の四


「何故、謝る必要がある…?カオルはこうして、傷を治してくれる」


私の呟きを、桜智は拾って首を傾げる。きょとんとした表情は、私がどのような意図で謝っているのか、理解できないと告げていた。その澄んだ瞳の色に、一層私は心が淀む。

私は、彼が迫害される現場を見たことがあるのだ。いや、過去形ではない。今でもたまに見かける。けれどもそこへ割って入ることはできなかった。逃げまどう彼を匿うことはある。でも大人たちに面と向かって反抗するようなことはできない。

(桜智は悪くない、わかっているのに)

私にできることはあまりにも少ないと、自分自身でわかっている。だからこそ、手当しかできない。私は興味本位で関わって、彼のことを助けられるわけでもないのに、都合よくこうして手当てをする関係になった。私はとてもずるいのだ。偽善者と言われても仕方のない行為だ。
それなのに桜智は、私を非難しない。傷を癒してくれてありがとうと、いつも薄く笑うのである。それが悲しくも美しくて、より一層私は彼に惹かれる。


「私も…鬼だったら良かったのに。そうしたら桜智だけを、つらい目に合わせないのに」


私が一緒に迫害を受けても、何の解決にもならない。だけどせめて同じ立場なら、気持ちを分かり合えたかもしれない。今も彼の心情を察すると、苦しくて悲しくてたまらなくなる。でも所詮、それは想像だ。きっと、同じ立場にならないと理解しきることはできない。
でも桜智は、ゆっくりと首を横に振った。


「カオルは、居てくれるだけでいい」

「……でも」

「カオルは、いつも色んな物を貰ってる。薬も、食べ物も、龍神の神子の話も…私は嬉しくてたまらない。いつもありがとう、カオル」


こんな綺麗な心の持ち主は、知らないと思った。だから私は、私の持てる全てをこの鬼の少年に渡そうと思ったのだ。沢山の薬も、秘蔵の書物も、全部。鬼である彼を、どうしても守ってやりたいと思ってしまうのだ。


150315



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