其の二


隠れ家と勝手に呼んでいる小屋がある。

とある神社の裏手にある小屋だ。かつては神主が倉庫として使っていたようだが、すっかり寂れた神社には長いこと管理者はいないようで、小屋もそのまま討ち捨てられていた。
寂れた神社の様子はどこか薄気味悪く、そのせいか近くに住む子供たちもなかなか寄ってはこない。ので、ここはゆっくり過ごすにはもってこいな隠れ家だった。そしていつしかここは、私と桜智がこっそり落ち合う場所にもなっていた。


「さ、着物を脱いで」


私が促すと、桜智はちょっと躊躇うような素振りをする。だが腕を組み仁王立ちする私を見て、観念したように上の着物を肌蹴た。

桜智は、そろそろ十歳になる男子にしては背が高い。だが全体的に白く細いので、その美貌と相まって、時折彼を女の子のように愛らしく見せる。だから、その肌に刻まれた数々の傷が余計に痛々しかった。

私は抱えてきた風呂敷から、いくつかのものを取りだした。まず薬草、塗り薬、包帯などなど。そして彼の傷口へと向き合う。


私は長崎の生まれではない。生まれたのは、母の故郷でもある紀伊だ。しかし行商人をしている父の仕事柄、物心ついた頃から住まいを転々としていた。
桜智と出会ったのは、数年前にこの長崎へやってきてからである。母が病に倒れたこともあり、ここ数年は私と母をここへ残し、父だけが行商の旅へ出ているのだ。


「血は止まっているけど…跡が残っちゃいそう。また、市場の男たちにやられたの?」


桜智は、黙ったまま答えない。私も特に追及することなく、彼の治療に専念する。
父が主に取り扱っている商品は、南蛮渡来の薬だ。また、うちは母も代々女系で薬師をしていた家系の出だったので、私が薬の調達に困ることはなかった。それは、とても有難いことだった。桜智の怪我は減ることがなかったし、私が彼にしてあげられるのはこれくらいだったから。

桜智は鬼の子だ。
それを理由に疎まれ、よく怪我を負っていた。


140401



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