其の七


「信用できそうじゃん、あの人」


都は隣に立つ瞬に、話しかける。二人の視線は、少し離れた場所で真剣に文書を読むゆきと、龍馬やチナミの問いに答えているカオルに向けられている。


「ちょっと変わったところはあるけど、ああいうサッパリした女性は私、好きだな」


カオルはどこか福地に似ていると最初に思った都だが、謎めいている福地に対してカオルには裏表の無さを感じていた。妖艶な外見の割に、女特有の面倒さも見当たらず、ハッキリとした物言いには好感が持てる。
しかし瞬は、まだ納得がいかないように顔をしかめた。


「――確かにカオルさんが神子に固執する理由はわかったが、結局、福地の何なのかは分からず終いだ」


”夢の屋”と”現の文鬼”。ただ瓦版上で筆の競い合いをしているにしては、親しげだ。幕臣で、未だに得体の知れない福地の知り合いというだけで、怪しく思えるのだ。
しかも、カオルは福地よりも遥かに強かだと瞬は判断していた。問い詰めようともすぐ、はぐらかされてしまいそうである。


「そんなの本人に聞けばいいじゃないか。瞬はまどろっこしいな」


だが、都はそのようには思わなかったらしい。気軽に声を上げた。


「カオルさん、ちょっといい?」

「なぁに、都ちゃん。分からない事でもあったかしら」

「聞きたいことは沢山あるんだけどさ、まずはお姉さんと福地がどんな関係なのか、教えてくれないかな」


にこりと笑ってやってきたカオルに、都は単刀直入に問い掛ける。カオルは目を瞬くと、なんでもなさそうに答えた。


「幼馴染みたいな・・・・・・腐れ縁よ。出身地が同じなの」

「福地、京出身じゃないの?」

「長崎なのよ。まあ、かつては京に居た家系らしいけどね」

「・・・貴女はわざわざ、長崎から出てきたのですか。そこまでして、なぜ福地を構う。貴方の腕ならば、長崎でも十分上手くやれるでしょう」


長崎といえば、今は外国との交流も盛んな場所だ。まだこの国で男尊女卑が根強いというのなら、日本外での活動も考えられるのではないか。少なくとも、幕末の混乱期に京に来る必要性はない。


「あー・・・そういうこと。瞬はそこ、気づかなかったのか」

「何・・・?」


都の意味ありげな言葉に、瞬は思わず声を荒げる。都は呆れたように笑い、カオルを茶化すように首を傾げた。


「で、お姉さん。福地のどこがそんなにいいの?」

「えっ・・・・・・と、それはどういう、」

「だから、好きなんでしょ。鈍感な奴らにはわかんなかったみたいだけど、バレバレ。あんな熱っぽい視線を向けられて、気づかない本人も本人だな」


綺麗な、しかし隙のない笑みを浮かべていたカオルの顔が、じわじわと赤く染まる。先程までの妖艶な雰囲気はどこへやら、彼女は顔を引きつらせて遂には顔を覆ってしまった。


「そ、そんな、私わかりやすいかな・・・!?」

「んーまぁ。でも気づいてたのは私と龍馬くらいじゃないかな」

「み、都ちゃんっ誰にも言わないでね・・・!」

「お姉さんがそういうのなら、言わないよ」


都の言葉を聞いて安心したのか、カオルは幼子のように足元にうずくまって息を吐く。


「ほら、わかっただろ。カオルさんがわざわざ京にいるのも、理由は歴然」


この都の言葉には、さすがの瞬も頷くしかなかった。



121115



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