其の五


なんでも、貸本をしているのも史料や文献の収集過程で出てきてしまった不要なものを、どうにか商売に役立てられないかと考えた結果らしい。


「私、筋金入りの凝り性でね。こうと決めたら突っ走っちゃうところがあるの」


店内だけでなく、生活スペースにまで積み上げられた紙類。目の前にそれらを提示されると、なるほどと思うしかない。感心した皆の中で、瞬だけは硬い表情のままだ。


「ただの興味で、こんなに打ち込めるものではないだろう。何か理由があるんじゃないのか」

「あら、学者や研究者とはそのようなものよ。ただ己の興味を追求して一生をかけるわ」

「後ろ盾があるような家の出ならまだしも、このような道楽で生きていこうなど酔狂にも程がある」


鋭く食いつく。普段、ゆき以外に対しては淡白すぎる瞬にしては、些かしつこい。
カオルはひとつ息を吐き、瞬に顔を向けた。


「桐生さんは、星の一族なのよね。八葉で星の一族ならば、その力も多少なりとも表れているのでしょう」

「・・・・・・」

「この時代にも、星の一族はいるわ。でも現在、力を持った者がいない。これは確かな話よ。私も神子関連の情報を集める為に、探りを入れたことがあるから」


その時のことを思い返したのか、自嘲気味な笑みを浮かべる。


「神子との関連がない私に、奴らは軽々しく情報は漏らさなかったけれどね。でもその後、一族の末席を名乗る人が訪ねてきた時に確信した。得体のしれない"文鬼"の情報に頼るしかない程、星の一族でも神子伝説はほとんど伝わってない」


この時代の星の一族が、どのような立場にあるのかは瞬にはわからない。しかし、代々みこを支えてきた彼らは、それなりの財力と後ろ盾を有してきたのだ。今度もきっとそれなりの地位にいる。そのような一族が、年若い娘を頼ったとするならば、弱体化はよほどのことだろう。


「私も、これだけの史料を集めてみたはいいけれど、わからないことだらけ。曖昧な記述ばかりで利用できそうなことは少ない。星の一族は、それでもこの史料をみたいと言った。譲ってくれれば管理もするから、と。でもかつての記録を失った彼らを信用はできないから、情報の開示だけをしたわ」


膨大な文献、史料。察するに、きっとこれはまだその一部でしかない。それを個人で保有する女。専門家である星の一族より遥か優位に立つ、彼女の蒐集力は執念に近い。


「でもね、全部ではないの。出し惜しみと言われても仕方ないけれど、どうしても公開できない秘伝の記録はその存在すら秘匿してきたのだから」


彼女は不意に、にやりと妖しく笑う。


「これが桐生さんの知りたがっている、私の理由」


カオルは、背後の小机に積んであったひとつの箱を差し出す。年代物らしく、面に墨で書かれた文字は所々が剥げていた。




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