弁慶さんの言葉は、全くの真実である。
私たちは京の混乱の中で、平家に寝返るための準備をしていた。まさに今も、その計画の最終確認をしていたところだ。

これには流石の望美ちゃんも、驚いたらしい。目を丸くして、息を止める。


「な…何言ってるんですか。変な冗談はやめてください」

「信じていただけないのなら、それはそれで構いませんよ」


弁慶さんはといえば、常と変わらない柔らかな表情だ。優しく穏やかで、知性的。望美ちゃんに見せるその顔は、完璧に彼の内面を隠しきったものである。この状態から、本心を見抜くことは、私にも出来ない。
望美ちゃんもそう悟ったのか、今度は私へと目を向けた。


「本当なの…あかり」


驚き疑いつつも、望美ちゃんはその可能性を受け入れつつあるらしい。本当に、賢い人だと思う。素直で、勇気があって、彼女に任せればあっという間に全ての問題が解決してしまうのではないかと、思わさられる。

彼女の視線を真っ直ぐ受け止めながら、ゆっくりと口を開いた。


「私からは何とも、言えないかな」


――でも望美ちゃんは、ひとりの女の子なのだ。
いくら白龍の加護を受けていようとも、強い意思を持っていようとも、剣術の腕に優れていようとも。生身のか弱い少女、その事実は覆らない。

もしかしたら、すごい力を発揮して敵を一掃できるかもしれない。いざという時に、何らかの奇跡が起きるのかもしれない。伝説の神子たちのように。

でも私は、その伝承だけを頼りに彼女に期待を押し付けられる程、素直ではなかった。嫌なところで現実的で、悲観的だ。未知な力を頼るより、確かな知識や情報に基づいた方法を支持した。

弁慶さんの計画も、一か八かというものである。決して安全で完璧とはいえない。
でも成功すれば……最小限の犠牲で、全てに決着がつけられる。


「ごめんね、望美ちゃん。私はずっと望美ちゃんの味方だとは言い切れない。私は源氏軍でも神子の八葉でもない――ただひとり、弁慶さんだけの味方だから」


なによりも、弁慶さんの側に居られるにはこれしか方法が、なかったのだ。





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