デジャヴというのだろうか。既視感。あの時と、全く同じ展開だった。
それは弁慶さんも思ったことだったらしい。引く様子の無い望美ちゃんを前に、「今度は僕が付けられてしまいましたか」と苦笑する。


「望美さん、一体どうしてここへ?」

「…屋敷を出て行く弁慶さんに気付いて、気になって付いて来ました。ごめんなさい」

「謝る必要はありません。でも、何故気になったのか教えてくれますか?もしかして、何か僕を疑っていたりするんでしょうか。あかり以外の女と浮気している、とか」


もちろんしていませんよ、なんて私に向かって付け足す彼は相変わらず役者だ。弁慶さんは、口が上手い。質問に込められた意図は、相手の本心を確実に引き出す罠となる。

(望美ちゃんが私たちを疑っているのかどうか…疑っているとすればそれに至る理由を、聞き出すつもりだ)

流石だと思うのは、さりげなくかつ柔らかい言葉なのに、はぐらかす余地を与えていないところだ。変にごまかしたり沈黙すれば、それも肯定と捉えることができる。
望美ちゃんは弁慶さんの問いに、少し口ごもる。

当然だ。あんな言い方されて、平然としていられる筈がない。大抵の人はきっと答えられないか、取り繕ってしまう。大のおとなでもそうなのだから。
だが。


「疑いたくないから来たんです」


きっぱりと、迷い無く告げられた彼女の言葉に、私ははっとした。
――違う、同じではない。あの時、大和田泊で対峙した彼女ではない。覚悟が、違う。


「弁慶さんについてもあかりについても、今良くない噂が出回っています。けれど私は、それが真実だとは思わない」


力強い瞳は、望美ちゃんの最大の魅力だ。白龍の神子――何よりも清らかで神力を宿すのに相応しい少女。だけれど、その限りではない。
強い意思、折れない心、覚悟。まるで…絶望の淵を覗き込んできたかのように、いつの間にか彼女はそれを身につけた。


「でも、このままじゃ疑いそうなんです。噂には決して信憑性が無いわけじゃない…だから、二人を信じたいから、来たんです」


そして今、正面から見据えられ、それをまざまざと思い知らされる。
戦いの女神。この乱世を収めるに、彼女に相応しい人物はいないだろう。


「…そんな風に言われたら、正直に話すしかなさそうですね」


言葉なく彼女を見つめる私の傍ら、弁慶さんは動揺ひとつ見せずに、囁いた。


「平家に寝返る計画を立てていたんです」





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