京を悩ませる怪異は、なかなか順調に解決できていた。各地に埋め込まれた呪祖の種がその原因であると、分かってきたのである。

望美ちゃんは八葉の皆とその対応に追われ、また九郎さんや景時さんは本格的な平家追討に向けての準備に奔走していた。私はというと、相変わらず弁慶さんの雑用を処理しつつ、時間があるときは梶原屋敷へ寄らせてもらっている。

状況はかなり変わったものの、概ね京で過ごした最初の頃の生活に戻りつつあった。

しかし私からしたら、それは本当に表面的なことでしかない。あの頃とは何もかも異なる。私も、弁慶さんも、その関係も。

今回の怪異騒動は、人目を憚り、仕事の合間を縫って進める計画にとても上手く作用していた。在ること無いこと、嘘や真、色々な要素が錯綜していて真実が見通しにくくなっているのだ。
こんな時だからこそ、企みは表沙汰になりにくい。嘘を吐くのが上手い、弁慶さんの企みならば尚更のことだった。


「弁慶さん、一刻後に町外れです」

「わかりました。あかり、今日の予定は?」

「私はこれから堀川屋敷で用事があるので、そこから向かいます」

「くれぐれも、用心して下さいね」


ほんの僅か、寄り添ったタイミングで言葉を飼わず。周囲の気配に気を付けての伝言だったので、誰にも見咎められることはないだろう。きっと今の場面は、私と弁慶さんが恋人らしく微笑みあう姿にしか見えなかっただろうから。

私は頻繁に弁慶さんに使い走りをさせられている。これは源氏軍の中では見慣れられた光景だ。それを逆手にとって、私は今、弁慶さんに紹介された“平家側の武者”と交渉を行っていた。私が道端で、武者姿の男と会話していても誰も気にすることはない。この事実を利用したのだ。
綿密に練った計画は、最終段階へと突入している。弁慶さんと私、二人だけで考え、実行するある計画。それを成功させることが、今の私たちの何よりの悲願となっている。あと少し、だった。このまま、問題無くその日を迎えられれば、全て上手くいく。



一刻後、約束の場所へ着くと既に交渉相手はそこへ居た。武者は私に気付き会釈する。今回は弁慶さんから直接話が聞きたいということだった。
すぐに合流した弁慶さんを交え、正式に、取り引きは交わされた。

(あとは…当日どうにかなれば…)

しかし、話はそう簡単にはいかない。


「あかり、弁慶さん。今、何をしていたんですか?」


いつかのように、やってきてしまった彼女は、片手間で誤魔化せるような相手ではない。



130905



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