1 あの日から望美ちゃんの、私を見る目が変わった。 具体的にどうとか、はっきりとは言葉にはできない。けれども確実に、今までとは違うということができた。 多分、望美ちゃんの私に対する認識が変わったのだと思う。切っ掛けは勿論、例の大輪田泊での作戦だろう。あの日、望美ちゃんは私を真っすぐと見た。弁慶さんの隣で、顔色ひとつ変えずに敵の命を奪う私を見た。 元々、望美ちゃんは私を過大評価していた節がある。元の世界での関わりがなかったせいもある。今まで彼女は、私が源氏軍で働いていることも、生きるために仕方なくしているのだと思っていたのかもしれない。 でも私は、望美ちゃんみたいに心の底から綺麗な人間ではないのだ。地味で卑屈で、行動力のない私。この世界へ来て、珍しい経験をしていると楽しんでさえいる。 そしてあの日。ようやく真正面から私は望美ちゃんに見てもらえた。 幻滅しただろう。非情な私に。 「知っているか、弁慶殿の話」 京、堀川屋敷。 私たちはまたここへ戻ってきている。三か所の候補から望美ちゃんは、京が次の闘いの舞台だと見抜いた。案の定、京では平惟盛の怨霊が怪異を起こしていると分かり、現在解決に走っているところだった。 その最中、とある噂が出回っていた。 市中で噂するのは主に源氏の武士だった。ひそひそと、しかし耳をそばだてれば聞こえないこともない囁き声。 私はとっさに身を潜める。それは弁慶さんに関する噂だった。決して良くない噂。 皆、私の姿を見ると口を閉ざす。私が弁慶さんの側近であると知れているから。私に聞かれたら、本人に言い付けられると思っているのだ。 それが分かっているから、私は気付かれないようにその内容を盗み聞く。 …そういえば、平家の全盛期の頃。禿と呼ばれる童が市中に放たれた。目的は、平家を非難する者を徹底的に洗い出し、対抗勢力を潰す為。 今の私は禿と同じようなことをしている。 それに気が付いて、なんだか無性に笑えた。 |