今回の合戦――福原事変がひと段落し、望美たちはこれからの事を話し合うこととなった。
今や平家による怨霊被害は日本各地へと広がっており、ただ平家の棟梁である平清盛を叩くだけでは不十分であると思えた。

様々な情報から考えた結果、行き先の候補は三つに絞られた。かつて大規模な合戦があり死者の多数出た倶利伽羅峠、鎌倉殿の膝元で九郎や景時とも関係の深い鎌倉、そしてかつて平家の本拠地であった京である。

どこへ行くかは龍神の神子、春日望美へと託された。そして望美が選択したのは―――。




その夜。それぞれに休息を取ることを決め、皆思い思いの場所へと散った。望美は考えたいことがあるからと、ひとり森の中へと足を踏み入れる。

(この選択で合っているのだろうか)

望美は胸元へ下げたペンダントに手を触れる。何かの鱗によく似たそれは、月の光をキラキラと反射する。

(・・・・・・!)

その時、少し離れた場所に誰かが居ることに気付いた。望美は思わず息を潜め、目を凝らした。


月影の下、抱き合うひと組の男女。
僅かに聞こえる囁き声。


明らかな恋人同士の逢瀬・・・しかもシルエットからそれが弁慶とあかりであるとわかった。気づかれて邪魔をするわけにはいかないとすぐに去ろうと思ったのだが、聞こえてきた会話、その光景に望美は釘付けになる。


「あかり・・・僕は、間違っていますか」

「・・・・・・」


かすれた声で問うのは、弁慶だった。


「僕は失敗を、何より恐れている。僕の進む道では君を幸せにはできない。君は僕を、見捨るのではないでしょうか」


その声は、今にも泣きそうなものだった。つい数時間前の非情な彼からは、考えられない弱々しい言葉。あかりを力いっぱいに抱いているのが、見える。


「・・・私には弁慶さんが正しいかはわからない。失敗しないとも言い切れない。それでも絶対に、貴方を裏切らない」


ゆっくりと、言い含めるように答えたあかり。弁慶の背中に回された小さな手が、宥めるように彼を撫でる。


弁慶があかりに追いすがっている、といった風だった。あの弁慶が、あかりに・・・何の力も持たない少女に、救いを求めるように追い縋っている。


あまりの衝撃に、望美は息をすることも忘れ、しばらくの間ただ二人を見つめていた。
そして思う。
二人は自分たちが思っているよりもはるかに、複雑な赤い糸――縁で絡み合い、歪な関係を結んでいるのではないかと。




―――そして舞台は再び、京へ。


130813



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