「先程望美さんは撒いた、と聞いたのですが」

「う・・・でも、ちゃんと誤魔化したしまさか着いてくるとは思わなくて・・・」

「相変わらず詰めが甘い。発想は悪くないのですがね」


弁慶の鋭い視線にあかりは肩を竦める。失敗した、とばかりに苦笑いを浮かべたあかりに、弁慶は呆れたように息を吐いた。


「まぁ、望美さんの勘の良さには並みでない力を感じますし・・・あかりでは騙しきれないのは当然か」


どうやら、最初から望美には黙ってこの作戦は行うつもりだったらしい。だからあかりはあんなに人目を盗むようにして、源氏軍を後にしたのだ。
源氏の武士を使っている限り、これは九郎や景時も容認している公式な作戦だろう。それなのに、なぜ弁慶とあかりは望美に隠れるようにしたのか。答えは考えるまでもない。望美が、止めるとでも思ったのだろう。


「弁慶さん・・・私も、実際に合戦で人を斬ってます。だからこんなのは間違ってるとか、そんな都合のいいことは言いません。源氏が勝つには、必要なことなのだろうから」


確かに、止めたかったのは事実。こんな一方的な戦い、見ているのも嫌だ。しかしそうも言っていられない。これは、遊びの合戦ではない。現実から、目を背けてはいけない。


「でもあかりを・・・あかりは巻き込まないでください。あかりが弁慶さんの恋人で、補佐で、私にはそれに口を出す資格はない。でもあかりは普通の女の子だから、こんな辛いこと・・・」

「違うよ、望美ちゃん。この作戦、私が指揮を執っているの」


望美の言葉を遮ったあかりの声ははっきりとしていて、一切の迷いが感じられない。驚き、彼女に目を向けた望美へ、静かに続ける。


「作戦は二人で立てた。この作戦は源氏が平家に勝つためには絶対に必要なこと、そう意見は一致したの。それで、私は自分で指揮を申し出たんだよ」

「な、なんで?!あかりは本来戦う必要はないのに、ただの女の子で、白龍の神子でもなくって、」

「うん。望美ちゃんの言うとおり、私は何の力もない女の子でしかない。でもね、だからこそ出来ることがしたいの」


望美は、ある思い違いに気づく。
あかりと出会ってからずっと、望美はあかりを大人しい、争いを好まない少女だと思っていた。・・・その認識は間違っていないが、その限りではなかったのだ。


「ごめんね、望美ちゃん――私は、もう引かないって決めたの。どんなに非人道的でも、必要ならばいくらでもするって誓ったの」


真っ直ぐと望美と目を合わせた彼女は、決して大人しいだけの少女ではない。争いは好まない、しかし必要とあれば非道な行いも厭わない、芯の強さを持っていた。


「絶対に、やり遂げたいことがあるから」


そして今のあかりの決意を、揺るがすことは自分にはできないと、望美は思い知らされた。


130727



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -