絶句した。

望美が辿り着いた先、広がるのは青い海原―――それを覆い尽くす真っ赤な炎の渦。沖へと逃げていく平家の船に放たれる火矢、逃げ場を無くし、海へ飛び込む武者たち。まるで地獄絵図。こんな一方的な戦い、否、虐殺は見たことがない。
そして更に悪いことにそれを行っているのは源氏武者であり、指示しているのは弁慶とあかりであった。


「望美ちゃん、来ちゃったんだ」


言葉を失い、立ち尽くす望美に気付いてあかりが呟く。どこか悲しげに、困ったように、彼女は弁慶を見上げた。その姿に、望美は我に返る。


「弁慶さんっ――これは、これはどういうことですか!?」

「どうもこうも、見ての通り合戦の続きです。未だ残っている平家を、追討しているのですよ」

「追討って、これではただの虐殺じゃないですか!」

「いやだな、人聞きが悪いですね。なんと言われても僕は構いませんが・・・今は少しでも平家の戦力を削いでおかなければ」


そう話しているうちにも沖では次々と船が沈んでいく。炎に照らされた弁慶の表情は、何を考えているのか望美には読み取ることができない。

(これは、怖い弁慶さんだ)

望美は三草山の時のことを思い出す。弁慶は普段の優しい顔の他に、どんな手を使ってでも目的を果たそうとする非情な軍師の顔を持っている。軍師として必要なこととはいえ、望美はどうしてもそれを好きになれなかった。
そして、もうひとつ。


「本当は・・・望美さんを悲しませたくありませんでしたから、知られたくなかったのですけれどね」


不意に弁慶は傍らの少女へ視線を落とした。呆れて小馬鹿にするような、しかしどこか慈しむような視線。


「あかり、あれほど言ったのに付けられましたね?」


あかりに対してにだけ向けられる、弁慶の表情だ。






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