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「特別仲良しということは、なかったんですけど。それからも有川は、歴史の試験の前なんかにわざわざ私の所まで聞きにきたりしたんです」


改めて話すと少し照れくさいような気がした。わざわざ他人に教えるような、面白い話でもないからだ。けれど今、私は弁慶さんにこれを伝えなければと思った。


「くだらないことを言い合うこともあって。有川はそれから日本史に興味を持ったみたいで、勉強以外でもよく雑談をしました」

「――例えば、平家のことなんかも?」

「もちろん。源平争乱期のことは例の勝負にも関わっていたので、かなり詳しく調べたし比較的話題は多かったかな」

「ならば有川くんが・・・例えば宇治川の戦いの流れを予測することは、容易いということですか」

「その程度なら、きっと」


弁慶さんは、額に手を当てて難しい顔をする。それから、暗い色の瞳を私に向けた。多分私も、同じ色の瞳をしている。

還内府の存在。今の平家ではそれが大きく影響を及ぼしているのだ。清盛と同等、もしくはそれ以上に。そして還内府の関わる合戦は、どれも源氏を苦しめている。私の知らない、平家の見事に源氏の動きを見越した行動。

有川がこちらへやってきたのは、私たちより三年ばかりも前のこと。その時から今まで、一体何をしてきたのか本人は話そうとしない。でも、身なりや態度からかなり良い生活をしているのは分かる。政治情勢にだって、明るいのだろう。


言葉にせずとも、弁慶さんの考えはわかった。恐らく彼も私の考えを見抜いている。私と弁慶さんは、きっとある共通の予測を立てているだろうから。


還内府、その正体はきっと。


「―――有川、だと思います」


あえて言葉にしたのは、覚悟を決める為だった。口に出せば単なる個人的な推測ではなく、二人の共通認識となる。逃げずに対峙するしか、なくなる。
でも情けなく、声は震えた。嫌な想像。外れることを望む推測。最早ごまかしきれない。確かに、私はそれを疑っているのだから認めなくてはならない。


「私たちは――いえ、私は有川の裏をかかなければ勝つことはできません」


言い直した。もし源氏として策略で平家に勝つとしたら、きっとそれは私の知識にかかっているから。これは、私の戦いになるだろうと思ったからだ。
でも自信なんてない。覚悟なんてできない。それが、どうしようもない本音だ。


「弁慶さん、私は」


縋るように弁慶さんの手に触れる。彼は何も答えずに、でも優しく私の手に握った。私はその温もりの中に、無理やり不安に揺れる心を隠し、目を閉じた。



130624



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