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まだ私が、高校に入りたての頃。


私は大人しく、人見知りをする方だった。自分から他人に話しかけられない、なんて程ではなかったけれど、それでも進んで初対面の人と交流を持とうとは思えなかった。ましてや異性となんて、論外である。

だから、急に声を掛けられてかなり動揺した。


「なぁお前、歴史得意なの?」


所属委員会の集まりの際だ。
一人静かに座っていた私は、始め自分が話しかけられているだなんて思わず、肩を叩かれて飛び上がった。


「え・・・わ、私・・・?」

「わり、驚かすつもりはなかったんだけどよ。あんた隣のクラスの、菅原だよな」


話しかけられただけでなく、名前も知られているなんて。しかも話しかけてきた相手が相手だったのだ。
有川将臣。
全く関わりはなかったけれど、彼のことは一方的に知っていた。隣のクラスの、女子の中では男前と噂の男子生徒である。


「実は、社会科の先生が話しているのを聞いてな。あんた、日本史が好きで社会科全般得意なんだろ?」

「う・・・そんな、得意ってわけでは・・・」

「でもこの前の中間試験、日本史満点だったって聞いた」


それを言われると、ぐうの音も出ない。多少誇張されてはいるが、確かに日本史の試験は満点だった。しかし本当に偶然なのだ。いつもは8割取れればいい方だし、日本史は趣味で好きなだけ。他の子より興味があるから知識がある、というレベルの差しかない。
が、そう伝える前に彼は真剣な顔で切り出してきた。


「なぁ菅原は、平家物語とかの時代背景・・・詳しい?」

「へ、平家物語?粗方読んだけど、詳しいって程では」

「じゃ平知盛とか、わかるか?」

「・・・清盛の息子で、壇ノ浦で入水した人だよね」


その問答の意図が私にはつかめなかった。しかし私の返答を聞くなり彼は、パンと音を立てて両手を合わせ、額のあたりに掲げたまま頭を下げたのだ。


「頼みがあるんだ!助けてくれ!」





その後、有川がある生徒に喧嘩を売ったことを私は知る。自分の知識をひけらかす嫌なやつで、特に日本史が得意らしかった。クラスメートがそいつにいびられているのを見て、つい口論をふっかけてしまったのだと有川は言う。
兎も角、そういう成り行きで“日本史勝負”をすることになった有川は、私に日本史を教えてくれと言ってきたのだった。

私は、協力した。その過程で何度か有川弟――譲くんとも顔を合わせたのだ。そして有川は、件の勝負で無事に勝利を収めたのである。

この一連の騒動の中で。私は本当に大したことはしていない。だけれど、有川の方は大変恩義と、親しみを感じてくれたらしい。
結果、有川とはそれからの付き合いで、クラスが異なるけれども時々話をする仲になった。





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