嫌な予感は、見事に的中した。私たちを集めた政子様は、高らかに宣言したのだ。

――和議は偽り。平家を追討せよ、と。


「あかり。予想は当たりましたか?」

「はい。間違いなくこれは、一ノ谷の戦いです」


弁慶さんに肩を並べ、私は渡された地図を食い入るように見つめる。
一ノ谷の戦いというとピンとこないかもしれないが、場面を上げれば覚えがある人も少なくないと思う。

例えば、源義経の鵯越え。崖を馬で駆け下りるという、思いもよらない奇襲により平家を一網打尽にした場面。

例えば、「敦盛の最期」。古典の教科書で最も良く取り上げられる部分で、熊谷直実という源氏の武士が逃げ遅れた若武者の首を取る話。若武者の美しさ、自身の息子と年が近いことなどから直実が泣く泣く首を取ったところ、彼の所持していた笛から平敦盛であったことが判明するのだ。


(でも・・・敦盛さんは既に私たちに同行している。だからこれは起こり得ない)

ここは異世界である。三草山での結果が異なったように、怨霊が発生しているように、同じ展開であるとは言い切れない。
しかし、現在の時点ではまさに一ノ谷そのものだ。

「政子様は、景時殿が生田口に向かったと仰ってましたね」

「ええ。源氏軍の本体は既にそちらです」

「私たち、九郎軍はどうするんですか」

「・・・貴女なら、どう攻めます?」


弁慶さんの言葉に、瞬きをふたつ。彼は真面目に問うているらしい。


「やはり、背後です。ここは裏手から少人数で行くのが得策かと」


ひと呼吸おいて、一点を指差した。平家軍の裏にあたる場所。急斜面の、およそ道とは言えない獣道。
鵯越えの舞台である。





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